IPSIニュースレター2021年10月号

2021.10.31

 紅葉の候、皆様いかがお過ごしでしょうか。IPSI事務局は、2021年10月11日~14日に開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP-15)の第一部および併催された会議にオンラインで参加しました。本会合において、各国・地域の首脳や閣僚は、昆明(中国)にて来春開催される予定のCOP-15 第二部において採択されるポスト2020生物多様性枠組(GBF)を進展させるための勢いと政治的意志の重要性を声高に表明しました。

 さて、2021年10月号のIPSIニュースレターをお届けします。日本語では概要のみご紹介しておりますので、詳細は英語版本文をご覧ください。

1. IPSI小委員会の設立

 IPSI事務局は、IPSIの10年にわたる経験と最近の世界目標を反映し、IPSI戦略と行動計画を、より戦略的かつ、行動指向的なものにするために、IPSI戦略の更新と新たな行動計画(PoA)の策定に取り組んでいます。全IPSIメンバーに募集後、性別、地域、組織タイプのバランスを考慮した上で、IPSI運営委員会委員長により、15名が小委員会メンバーに任命されました。2021年9月24日に第1回小委員会がオンラインで行われ、IPSIの10年の活動の概要が共有され、次のステップに向けた作業工程が議論されました。多数の経験豊富なメンバーが小委員会に参加して下さっていることを喜ばしく思うと共に、IPSIの更なる発展に貢献して頂けることに感謝します。

 小委員会のメンバーのリストは、こちらをご覧ください。

2.SDM 2021プロジェクト採択結果

 SATOYAMA 保全支援メカニズム(SDM)は、2013年に設立されたIPSI協力活動のひとつで、社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープ(SEPLS)の保全と持続可能な利用の優良事例となり得るIPSIメンバーによるプロジェクトに、毎年、資金援助を行っています。今年初めに募集したSDM2021には、合計17件の応募があり、SATOYAMAイニシアティブのコンセプトを実施・推進する上で最も有望と判断された下記6プロジェクトが採択されました。


・ コミュニティーに根ざした環境保全【NGO・ケニア】 

・ 文化アイデンティティと資源利用管理 (CIRUM)【先住民、コミュニティ団体・ベトナム】 

・ ブータン王立大学自然資源学部  【学術研究機関・ブータン】 

・ 公益財団法人「持続可能な開発戦略研究所」 【NGO・キルギス】 

・ スモール・アクション・フォー・エンタープライズ(SAFE)【NGO・ガーナ】

・ ダルハイ【NGO・フィリピン】

 SDM事務局は、SDMへのご応募と関心を寄せてくださった皆様に感謝いたします。SDMの詳細は、ウェブサイト(英語)をご覧ください。SDMについてのご質問は、SDM事務局(sdm@iges.or.jp)へ直接お問い合わせください。

3.記事紹介:ビクーニャとラクダと環境 (VICAM) (アルゼンチン)によるプロジェクトレポート

 IPSIメンバーである、アルゼンチンのビクーニャとラクダと環境(VICAM) より、周囲の生物文化遺産と牧畜業の複合的な価値への理解を促進することを目的とした学校活動についてのプロジェクトレポートが届きました。本レポートは、描かれた形状を解釈する子どもたちの驚くべき能力と、その地域の社会環境史との関係に焦点を当てています。プロジェクトは、SDM2020 プロジェクトの一環として実施されました。

 プロジェクトの詳細は、こちらのレポート全文をご覧ください。

4. 生物多様性条約第15回締結国会議(COP-15)第一部の成果

 生物多様性条約第15回締結国会議(COP-15)の第一部が、2021年10月11日~14日の間、昆明(中国)においてオンラインと対面方式のハイブリットで開催されました。10月12日~13日に開催されたハイレベルセグメントでは、各国・地域の首脳や閣僚は、生物多様性の回復に向けて速やかに行動することや、自国の政策や取組において生物多様性を主流にすることの重要性を表明すると共に、ポスト2020生物多様性枠組の策定、採択、実施の重要性を強調しました。多くの首脳や閣僚が各国のコミットメントを発表し、2030年までに世界の陸域と海域の少なくとも30%を保全するという目標(30-by-30 target)を採択し、現在73ヵ国で構成されている政府間グループ「自然と人々のための高い野心連合(HAC」に参加することの重要性を強調しました。取組を効果的かつ早急に実施するために、首脳・閣僚陣は、資金援助を発表することにより、コミットメントを示しました。地球環境ファシリティは、国連開発計画および国連環境計画とともに、ポスト2020生物多様性枠組の迅速な実施を促進するため、途上国への資金支援を速やかに行うことを約束しました。欧州連合(EU)は、生物多様性のための政府開発援助資金を倍増することを発表し、フランスと英国の政府は、気候変動に関する追加資金を生物多様性プロジェクトに割り当てることを表明しました。中国の習近平国家主席は、開発途上国における生物多様性の保全を促進するため、約2億3千万ドル規模の「昆明生物多様性基金」の設立を発表しました。

 日本の山口壯環境大臣は、生物多様性日本基金の第2期分として、1,700万ドル規模の追加拠出を約束しました。またSATOYAMAイニシアティブについては、自然との共生を目指す「2050年ビジョン」の実現に向けて、気候変動を含む社会的課題の解決のために、自然環境を活かした優良事例を推進していくと共に、開発途上国においてSATOYAMAイニシアティブに基づく取組を展開していくことを表明しました。

 10月13日に開催されたハイレベルセグメントの閉会式において、「エコロジカル文明:地球のすべての命に共有される未来をつくる」をテーマとした「昆明宣言」が採択されました。首脳・閣僚陣は宣言の中で、効果的なポスト2020生物多様性枠組の策定、採択、実施を確実にすること、意思決定プロセスにおける生物多様性の保全と持続可能な利用の主流化を引き続き推進すること、生物多様性国家戦略および行動計画の更新を加速・強化すること、経済・社会・環境の各側面における利益を確保するために、生態系を活用したアプローチ、ワン・ヘルス、その他の包括的アプローチの適用を拡大することを約束しました。

 「昆明宣言」を含む報告書や文書は、CBDのウェブサイト(英語)にてご覧いただけます。­­

5.昆明でのCOP-15併催イベント

  20211012日、UNU-IASは「Collaboration and Cooperation」と題されたハイレベル政策フォーラムと対話に参加しました。UNU-IASの山口しのぶ所長は、生産ランドスケープにおける生物多様性の保全、回復、持続可能な利用が、今日の社会が直面する最も差し迫った課題に、重要な利益をもたらすことを強調した声明を発表しました。そして、「有害な補助金を、SATOYAMAイニシアティブが推進する社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープ(SEPLS)のような持続可能な取組を実施している農家に報いる革新的な政策に再分配することで、各国政府は社会経済的な開発目標を達成すると共に、排出量を削減し、生物多様性を保全することが出来、持続可能な開発目標や気候変動に関するパリ協定の達成に貢献することが出来る」と述べました。

 1014日~15日には、COP-15のテーマに沿った併催イベント「Ecological Civilization Forum」がハイブリット形式で開催されました。7つのサブフォーラムが開催され、そのテーマは、カーボンニュートラルに向けた戦略から、自然に基づいたソリューションや自然資本会計の導入事例にまで及びました。フォーラムの詳細については、こちら(英語)をご参照ください。

 生物多様性条約第24回科学技術助言補助機関会合(SBSTTA-24)及び第3回条約実施補助機関会合(SBI3)、ワーキンググループ2020-3は、2022112日~28日の間、ジュネーブ(スイス)で開催される予定です。COP-15第二部は現在のところ、20224月~5月、昆明(中国)にて対面式で開催され、そこでポスト2020生物多様性枠組が採択される予定です。

6.ケーススタディ紹介:バック・トゥ・ネイチャー(ネパール) 

 今月は、IPSIメンバーであるネパールのバック・トゥ・ネイチャーによるケーススタディ「Declaration of World Peace Biodiversity Park as an institutional to initiate SEPLS approach on Panchase Protected Forest Landscape Region」をご紹介します。

 本ケーススタディでは、ネパール・ポカラの世界平和生物多様性公園周辺の景観におけるエコツーリズムの推進についての事例を挙げ、ネパールの自然地域の開発にとってエコツーリズムが、いかに不可欠な要素となっているかを説明しています。エコツーリズムは地域の生計を向上させ、経済的機会を創出するのに役立ちます。バック・トゥ・ネイチャーは地元政府、地元NGO、地域社会と協力して、エコトレイル、ウェルカムゲート、案内板、池、チャウタリ(ハイカーのための伝統的な休憩所)、衛生設備などを建設しました。その結果、「長期的な持続可能性、ガバナンスの強化、SEPLSの効果的な保全を採用することで、生物資源の持続可能な利用というプラスの結果を得られた」と著者は報告しており、エコツーリズムが自然保護と持続可能な開発にいかに有益であるかを示す一例となっています。一方で、「資源の乱開発、インフラの整備の遅れ、費用対効果の低下による地元住民の意欲の減退」などの課題も指摘しています。地域の持続可能な管理を長期的に行うためには、関係者間のコミュニケーションや、技術的・財政的・制度的な支援を継続的に行うことが重要であると指摘しています。

 本ケーススタディの詳細はこちら(英語)をご覧ください。

7.イベント「持続可能な社会づくりのための環境教育の推進 ~環境教育によって育む学力と環境保全意識~」

 2021年11月19日(金)、第53回全国小中学校環境教育研究大会(東京大会)がオンラインで開催されます。IPSI事務局のイヴォーン・ユー博士が登壇し、国連広報センター(UNIC)所長の根本かおる氏とのパネルディスカッションに参加します。根本氏は、「SDGsを自分事に私たちと世界・地球をつなげる思考を」をテーマに、イヴォーン氏は、「地球環境の今~生物多様性と私たち~」をテーマに講演を行います。東京都内の小中学校から環境教育への情熱と献身を共有する先生方が参加し、子どもたちの自然への関心を高め、地球の持続可能な未来を築く方法について意見を交換します。

 セッションは日本語のみで開催されます。11月8日までの参加の申込みが必要です。イベントの詳細はこちらをご覧ください。

8.イベント: ISAP2021テーマ別会合

 2021年12月2日11:00~12:00(日本時間)、公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)とIPSI事務局(UNU-IAS)は、「持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP) 2021)」において、オンラインセッション「Landscape Approaches for Biodiversity, Climate Change and Sustainable Development Co-benefits」を共催します。

 本セッションでは、生物多様性と気候変動の相互依存性に焦点を当てたIPBES-IPCC共催のワークショップ報告書を背景に、世界中のSEPLSからの実践的な経験を持つ講演者を集め、「持続可能性のための決定的な10年」に向けて注力すべき、生物多様性、気候、持続可能な開発のコベネフィットのための変革的行動を探ります。本セッションでは、SEPLSにおける生物多様性と気候の相互関係に関する基調講演とフレーミングプレゼンテーションが行われ、その後、2つのケーススタディの発表とパネルディスカッションも行われます。

 本セッションの詳細は、ISAP2021のウェブサイトをご覧ください。

本ニュースレターで配信を希望されるイベント等の情報がございましたら、IPSI事務局までご連絡ください。また、日本語の記事をお送りいただければ日本語版ニュースレターに掲載いたします。皆様からの情報提供をお待ちしております。


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SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)事務局
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電話:03-5467-1212(代表)
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