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リオ+20サイドイベント「SATOYAMAイニシアティブとグリーンエコノミー」開催報告

2012.06.22

2012年6月18日、ブラジル・リオデジャネイロで開かれたリオ+20のジャパンパビリオンにおいて、「SATOYAMAイニシアティブとグリーンエコノミー」をテーマとしたサイドイベントが、環境省とSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)事務局の共催で開催されました。
開会挨拶

竹本和彦氏(環境省参与/IPSI事務局長)による開会挨拶では、SATOYAMAイニシアティブの紹介に続き、リオ+20のテーマでもあるグリーンエコノミーへの移行に向けて、多様な主体が参加し協働していくことが重要であることに言及、また、これを踏まえ、本サイドイベントには国連、政府、国際機関、企業といったバラエティー豊かなスピーカーをお招きしている旨、紹介がありました。

 

基調講演

続いて、武内和彦氏(国連大学副学長)が、「グリーンエコノミーへの発展:社会生態学的生産ランドスケープ(SEPLs)」をテーマとした基調講演を行いました。武内氏は、自然共生社会を実現し、グリーンエコノミーに移行するにあたり、以下の3点が重要な柱となると述べました。

  • 新たなビジネスモデル(単一栽培(モノカルチャー)から付加価値のある多品種栽培への移行)
  • 新たな“コモンズ”(多様な主体による新たな共同管理のあり方の摸索)
  • レジリエンス/回復力(頻発する災害に対してのみならず、緩やかな環境変化に対するレジリエンスの強化)

基調講演

特に1点目の新たなビジネスモデルについて、1)中国・雲南で、多品種栽培(チャノキ林)によって生産されたお茶に付加価値をつけることにより、市場価格が9倍にも上昇したこと、また、従来の栽培方法に比べ干ばつや暴風雨などの被害が減少するなど、レジリエンスが強化された事例;2)佐渡で、観光・保全活動・認証制度を組み合わせることで米などの産品の付加価値が向上し、SEPLsの活性化を図る事例;3)スリランカ・キャンディのホームガーデンで、複数の企業によるパートナーシップが、同地域で取れる多様な生産物の市場アクセスを開拓可能とする事例、の3つの具体的事例が紹介されました。

事例発表

続いて行われたパネルディスカッションでは、4つの事例発表に続き、グリーンエコノミーへの移行に際しての課題、SATOYAMAイニシアティブの有効性及びグリーンエコノミーを実現するにあたっての今後の活動の可能性について議論されました。

(1) ヤニック・グレマレック氏(国連開発計画(UNDP)地球環境ファシリティ(GEF)ユニット執行調整官/ UNDP政策立案局環境資金・環境エネルギー部部長)からは、「社会生態学的生産ランドスケープのコミュ二ティに根ざしたレジリエンスのための投資」をテーマに発表が行われました。今後数十年間に世界が直面するであろう重大な課題について触れた後、UNDPが採用しているランドスケープアプローチについての詳しい説明がありました。グレマレック氏は、それぞれの地域にあった解決策が必要であることを強調し、その一環としてUNDPの小規模無償プログラムを活用して世界11か国で実施されている「SATOYAMAイニシアティブ推進プログラム(Community Development and Knowledge Management for the Satoyama Initiative (COMDEKS))」が紹介されました。

(2) 星野一昭氏(環境大臣補佐官)は、「SEPLにおける社会経済活動:日本の経験」と題した発表を行いました。IPSIのこれまでの経緯について説明があった後、IPSIに関連して、a)旭化成と延岡市による官民協働の取り組みを通じて、森林の再生、生物多様性の回復、地域の雇用促進に貢献した事例;b)ブラザー、キヤノン、デル、エプソン、日本HP、レックスマークのプリンターメーカー6社が実施している画期的な家庭用プリンターの使用済みインクカートリッジの共同回収活動「インクカートリッジ里帰りプロジェクト」を通じて、様々な環境・社会貢献を行っている事例;c)中越パルプ工業による未利用竹材の商業的利用を通じて、荒廃した竹林の管理が行われている事例;d)東北大学、環境省、CEPAジャパン、インクカートリッジ里帰りプロジェクト及び国連大学によるIPSI協力活動として、東日本大震災からの里山・里海コミュ二ティの復興と活性化に向けた取組の事例、の4つの具体的事例が紹介されました。

(3) トニー・サイモン氏(ワールド・アグロフォーレストリー・センター(ICRAF)所長)からは、「木のあるランドスケープの将来」と題した発表がありました。「森林」を定義すること、さらには「森林破壊」が実際は何を意味しているのか特定することの難しさについて指摘があった後、過去の世界の森林面積の変化についての概況が示されました。世界の森林とアグロフォーレストリーの現状を示した2つの異なる地図を見せながら、これらを別物として捉えるのではなく、一つのパラダイムとして考えていくことが重要であると強調しました。最近の傾向として、セクター別アプローチが問題となっていると指摘し、それによって実世界のランドスケープがモザイク状であることを考慮せず、パズルのように個々に分けられてしまっているとの懸念を示しました。また、森林の変遷を表した曲線や、土地の法的権利(所有権)の有無と土地利用の間に明らかに相関関係があるというデータも示されました。最後にサイモン氏は、土地のアクセス権について、アグロフォーレストリーやモザイク的特徴を有したランドスケープに関する議論を考慮した上で、その経済的、社会的、生態学的な意味合いを考えていく必要があると述べました。

(4) 長澤誠氏(株式会社フルッタフルッタ社長兼CEO)は、「アグロフォーレストリー・マーケティングを通じたグリーンエコノミーの実現」と題した発表を行いました。自身のアグロフォーレストリーに対する理解が年月を経ていかに変わってきたかについて述べました。そして、熱帯雨林の伐採跡地で行なわれたコショウの単一栽培が、一時は大きな利潤を生み出し「黒いダイヤモンド」と評された時期があったものの、結局は病害が発生し失敗に終わってしまい、それ以降、人々が、先住民の人たちがその地域でどのように生活してきたのか考えるようになり、単一栽培から多種栽培へ移行したという事例を紹介しました。荒廃した土地に70種近い木々を植えることで、過去20数年間にわたり、バイオマス(生物量)が劇的かつ持続的に増加していること、またそうした多様な産品を高付加価値で市場に提供するためには、企業のアライアンスが大きな役割を果たしていることが報告されました。長澤氏は、企業がCSR(企業の社会的責任)に携わる上で最も端的な手段は、優れた農業が実践されている地域で生産された原料を使うことであり、そのような生産地域から、主要なマーケットの存在する北半球に付加価値の高い商品を提供し、その対価を南半球に還元することにあるのではないかと指摘しました。

 

パネルディスカッション

 

 

4名からの発表に続き、武内氏をモデレーターにディスカッションが行なわれました。始めに武内氏は、最近自身が訪れたブラジル北部にある大規模なアブラヤシの単一栽培と隣接しているアグロフォーレストリーについて触れ、SEPLの概念を林業活動において主流化していくことは可能かという質問をサイモン氏に投げかけました。サイモン氏は、これはICRAFのみならず世界が直面している大きな挑戦の一つであると指摘し、その理由として、増え続ける世界の人口に食料を供給するため、過去8,000年間で消費されたのと同じ分の食料が、今後40年の間に必要となるということを挙げました。また、マルチセクターアプローチの有効性を高く評価し、引き続き知見の共有と意識改革を行なっていくことの必要性について強調しました。

次に武内氏は、自然地域の復元、農業生産高の向上、ランドスケープの再構築に取り組む際、様々なアプローチが取られていることに言及した上で、星野氏に対し、自然共生社会を実現するためにはお互いどう折り合いをつけていけばよいかと意見を求めました。星野氏は、東北地方で計画が進んでいる三陸復興国立公園を例に挙げ、設計に際し、重要とされる生態系の保全だけでなく、災害に見舞われても保護機能を果たし回復力を持つように自然地域をデザインしようとしており、それは自然が併せ持つ良い面、破壊的な面の両方を考慮したものであると述べました。

続いて、長澤氏が提唱した企業アライアンス構想について、さらなる説明が求められました。長澤氏は、これまでほとんどそういった取り組みをしてこなかった大企業との連携が最も大きな課題であると指摘しました。また、従来の枠組を超えて環境に配慮した資源管理を行なっていくことの必要性についても言及し、複数の異なる産業が連携してアライアンスを形成する必要があると提言しました。

会場からの質問も、土地の所有権や資源へのアクセス権の重要性や、持続的なランドスケープ管理においていかに文化的側面が重要であるかについて関心が寄せられました。セクターを超えたパートナーシップの構築が重要である旨の発言があったほか、参加者の一人からは、SATOYAMAイニシアティブのアプローチは多くの人が理想とするところに非常に近いという意見も出されました。

基調講演及びパネルディスカッションのプレゼンテーションは、本ウェブページの右側のコラムよりダウンロード頂けます。

 

会場となったジャパンパビリオン

 

サイドイベントの会場内の様子

 

ジャパンパビリオンで折り紙に挑戦している若い参加者たち