IPSIニュースレター2021年11月号

2021.11.30

 深秋の候、皆様いかがお過ごしでしょうか。IPSI事務局は、「自然と共生する社会」に向けたランドスケープ・シースケープアプローチに関連する様々なプロジェクトや活動に積極的に取り組んでいます。日本における新型コロナウィルス感染症は現在のところ大幅に減少しておりますが、皆様、引き続き健康と安全に留意してお過ごしください。

 さて、2021年11月号のIPSIニュースレターをお届けします。日本語では概要のみご紹介しておりますので、詳細は本文をご覧ください。

1. IPSI活動レビューに関するアンケート調査

 2010年の設立からこれまでのIPSIの活動について、IPSIメンバーの皆さま及びIPSIの取組に参加くださった方々に、アンケート調査を実施予定です。皆さまからの回答は、IPSI運営委員会および分科会が案作成の議論を進めている、IPSIの戦略および行動計画の更新に活用させていただきます。近日中にご案内をIPSIウェブサイトに掲載予定です。皆さまのご協力をお願いいたします。

2. SATOYAMA Initiative Thematic Review Vol.8 原稿募集

 UNU-IASは、「SATOYAMA Initiative Thematic Review Vol.8(SATOYAMAイニシアティブ主題レビュー第8巻)」の刊行にあたり、IPSIメンバーからの原稿要旨を募集します。本巻のテーマは、「社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープ(SEPLS)の管理による生態系回復(Ecosystem restoration through managing socio-ecological production landscapes and seascapes (SEPLS))」です。本テーマに関連する事例をお持ちのIPSIメンバーは是非ご応募ください。

 英文400語の要旨をIPSI事務局(sitr@unu.edu)宛、2021年12月20日までに提出ください。原稿(full manuscript)提出締切は2022年2月20日となり、2022年3月に執筆者の最終選考が行われる予定です。詳細はこちら(英語)をご覧ください。
 
 本巻は、SEPLSと生態系回復との関連性に焦点を当てます。小規模農家、先住民、地域コミュニティなど複数のステークホルダーが、SEPLSの活動を通じて、生態系の劣化に対処し、生物多様性と人間の福利のために生態系を回復させる上で、どのような役割、姿勢、行動を取っているかの事例を紹介します。また、ランドスケープ・シースケープレベルの再生に向けた努力が、現場における生物多様性や人々の福利の向上への貢献のみならず、地域、国、国際社会における生態系回復に関する政策立案そしてその実施課程にどのように貢献し得るかという洞察を提供することを目的としています。

 SATOYAMAイニシアティブ主題レビュー(SITR)に関する詳細及びこれまでに出版されたSITRについては、こちらをご覧ください。

3. 新刊紹介:ポリシーブリーフ「より良い復興に向けたランドスケープ・シースケープにおけるレジリエンス」

 UNU-IASから最新のポリシーブリーフ「より良い復興に向けたランドスケープ・シースケープにおけるレジリエンス(Resilience in Landscapes & Seascapes: Building Back Better from COVID-19」のお知らせです。本稿 は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)からの変革的回復を誘導するため、ランドスケープ・シースケープにおけるレジリエンス(回復力)を強化することを提言しています。特に、より良い復興の実現に向け、グリーン・リカバリーを通じた、レジリエンスを強化するための機会とそのためのアプローチに焦点を当てています。


 本ブリーフは、UNU-IASが関係機関と協力して開発した評価ツール「社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープ(SEPLS)におけるレジリエンス指標」の活用実績から得られた経験と教訓に基づいています。著者は、西麻衣子氏(IPSI事務局、名取洋司氏、デボン・R・ダブリン氏の3名で、UNU-IASの研究テーマ領域「生物多様性と社会」の一環として、IPSIメンバーや世界中の専門家の参画により実施された調査に基づいています。

 本ブリーフの詳細は、こちら(英語)よりご覧いただけます。

4. ISAP2021 テーマ別会合「里山・里海にみる生物多様性、気候変動と持続可能な開発のコベネフィット」

 2021年12月2日11:00~12:00(日本時間)、IPSI事務局(UNU-IAS)と公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)は、「持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP)2021」において、オンラインセッション「里山・里海にみる生物多様性、気候変動と持続可能な開発のコベネフィット」を共催します。

 本セッションでは、生物多様性と気候変動の相互依存性に焦点を当てたIPBES-IPCC合同ワークショップ報告書を背景に、世界各地のSEPLS保全管理に関する実践的な経験を持つ講演者を集め、「持続可能性のための決定的な10年」に向けて注力すべき、生物多様性、気候、持続可能な開発のコベネフィットのための変革行動を模索します。

 詳細は、こちらをご覧ください。また、参加登録はこちらをご覧ください。

TPSI LOGO

5.台湾におけるSATOYAMAイニシアティブの10年:過去、現在そして未来

 シンポジウム「台湾におけるSATOYAMAイニシアティブの10年:過去、現在そして未来」が、IPSIメンバーである行政院農業委員会林務局、国立東華大学、国立屏東科技大学、法鼓文理學院およびEndemic Species Research Instituteにより共催されました。台湾のIPSIメンバーは2011年加入の1組織から今では18に増え、2015年にはSATOYAMAイニシアティブ台湾パートナーシップ(TPSI)も設立され、220以上の団体が参加しています。

A group photo

TPSI family

World Leaders Summit in Glasgow (Photo from UKCOP26.ORG)

6.国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)について

 20211031日から1113日にかけて、グラスゴー(英国)で開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)は、2015年にパリで合意された「2℃より十分低く、1.5℃を目指す」とする長期目標の「1.5℃目標」を達成すべく行動を強化する一連の決定、および気候危機に取組むための首脳陣からの新たな決意で閉幕しました。各国が宣言した温室効果ガス(GHG)排出量の削減の野心度は、専門家による勧告には及ばなかった一方、石炭や化石燃料の段階的削減に関する文言が初めて盛り込まれたことは重要な進展でした。

 今回合意に至った事項の一つ、グラスゴー気候協定38項は、生態系や生物多様性に言及しています。本項は、パリ協定の下の締約国会議が、「パリ協定の気温目標の達成には、社会的および環境的セーフガードを確保しつつ、温室効果ガスの吸収・貯留源として機能する森林やその他の陸域および海洋の生態系および生物多様性の保全を通じて、自然と生態系を保護・保全・回復することの重要性を強調する。」と述べています。条約の目標を達成するために、自然と生態系サービスの重要性を認識していることを示すと共に、自然に基づく解決策(Nature based Solutions: NbS)に言及したい締約国と、NbSの定義が合意されていないことへの懸念を表明する締約国とのバランスが取られた表現となりました。会期中のNbSに関する専門家による議論では、NbSの活用は、気候、生物多様性の保全、社会経済の発展といった複数分野に利益をもたらす可能性はあるものの、脱炭素化にとって代わるものではなく、脱炭素化を遅らせてはならないことが強調されました。NbSへの投資は、生物多様性を保全し、気候変動への耐性を高め、先住民や地域コミュニティの権利を維持しながら、長期的な炭素吸収源としての生態系の能力を強化するものでなければなりません。

Linear reductions in global CO2 emissions and the corresponding probabilities that these would enable remaining within 1.5°C warming to preindustrial levels. Source: Future Earth, The Earth League, WCRP (2021). 10 New Insights in Climate Science 2021. Stockholm


 また、会期中、「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言」が採択されました。署名国(1115日時点で142ヵ国)は、「持続可能な開発を実現し、包括的な農村変革を促進しつつ、2030年までに森林の消失と土地の劣化を食い止め、回復させるために、共同で取り組む」ことを約束しました。

首脳宣言および署名国のリストはこちらから、「森林と土地利用に関するアクション」をテーマにした世界リーダーズ・サミットの録画映像はこちらからご覧いただけます。グラスゴーで開催されたCOPほか、京都議定書締約国会議(CMP)、パリ協定締約国会議(CMA)で採択された一連の決定事項についてはこちらをご覧ください。また、NbSのための資金に関する資金常設委員会のフォーラム第1部の概要についてはこちらから、IPCC第6次評価報告書の第一作業部会報告書はこちらからご覧いただけます。

7.ケーススタディ紹介:行政院農業委員会水土保持局(SWCB) 

 今月は、IPSIメンバーである台湾の行政院農業委員会水土保持局(SWCB)によるケーススタディ「Government – Community collaboration for natural ecological sustainability-Yi Hsin Community, Nantou」をご紹介します。

 本ケーススタディでは、「実証農場」と「クロスドメイン・プラットフォーム」を活用することで、従来型農業から、環境に配慮した農業への転換を容易に実現しています。これはこの地域のSEPLSの保護にもつながり、「人間と生態系の共存」という目標に向かった取組となっています。

「実証農場」では次の活動を行っています。
(1)行政院農業委員会が2009年に希少保護種に指定した地域固有の魚種Pararasbora moltrechtiのためのシェルタープールの設置。

(2)化学肥料や農薬の有機肥料への切り替え。

(3)害虫発生時期の光による調節。

(4)移行期間中の経済的損失を軽減するための、グリーン保全ラベルを使用。

 2020年には、17の機関、専門家、学者などで構成されるマルチステークホルダー・パートナーシップ「Pararasbora moltrechti保全のためのクロスドメイン・プラットフォーム」が設立されました。クロスドメイン・プラットフォームの会合は、活動実施に必要な知識と資金の支援を提供し、公的機関・民間機関・地域コミュニティ・学術機関を含む様々な関係者を巻き込んで、生態系劣化の問題に取り組むことの重要性を示しました。

 本ケーススタディはその成果と教訓として、魚の数の増加、生態系に配慮した農地と地域農産物の安定的な拡大、地域事業としてのエコツーリズムモデルの創出などを紹介しています。近年では、若者が地域に戻り、果樹園や農業の管理を手伝っています。教育や他コミュニティからの学び、自己能力の向上、様々な利害関係者とのパートナーシップが重要であるとも述べられています。

 本ケーススタディの詳細はこちら(英語)をご覧ください。

アレクサンドラ・フランコ、日本の野田にて

8. IPSI事務局新メンバー、アレクサンドラ・フランコからのメッセージ

IPSIメンバーの皆様

 UNU-IASの生物多様性と社会(BDS)プログラムおよびIPSI事務局の新たなコミュニケーション・アソシエイトとして、様々な機関、学者、そしてできる限り多くの人々に私たちが行っている重要な取組をお知らせするよう努めてまいります。

 私は幸運にも、多様な生態系がその構造の一部となっているようなメキシコの小さな街で育ちました。学校へ向かうバスの車窓には、砂漠の山々と緑豊かな生産ランドスケープが広がっていました。作物や蓄牛用の水の価格や、暖かい季節の予期せぬ雹の落下といった農家の抱える問題は、街の問題でもあります。私は幼い頃から、私たち、人間社会はお互いにつながっているだけでなく、環境にもつながっていると教えられました。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、社会と環境のつながりをはじめ多くのことを教えてくれました。最も重要な教訓の1つは、この大変な課題において私たちは共闘しているということです。私たちはまさにグローバリゼーションの時代に生きています。パンデミックは突如として起こり、私たちはふいをつかれ、影響を受けない国がなくなるほどに広がりました。また、このパンデミックを乗り越えるには国際的な努力が必要であることも学びました。誰かが取り残されては、恒久的な解決策がありません。ほぼ2年たった今も、やっと回復し始めたところです。パンデミックの経済的、社会的、環境的影響は今後何年も続くでしょう。これらの教訓を活かし、気候変動および生物多様性の損失への課題に対処していく必要があります。

 コミュニケーション・アソシエイトとして、IPSIのビジョンである自然と共生する社会の実現に向け、皆さまと共に取り組んでいくことを楽しみにしています。

敬意をこめて

アレクサンドラ・フランコ

本ニュースレターで配信を希望されるイベント等の情報がございましたら、IPSI事務局までご連絡ください。また、日本語の記事をお送りいただければ日本語版ニュースレターに掲載いたします。皆様からの情報提供をお待ちしております。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)事務局
国際連合大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)

東京都渋谷区神宮前5-53-70
電話:03-5467-1212(代表)
E-mail: isi@unu.edu
連絡先やメールアドレスに変更があった場合は、事務局までお知らせください。
□当ニュースレターの配信登録はこちら

*SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)は、日本国環境省の支援により運営されています。