IPSIニュースレター2020年9月号

2020.09.15

IPSIニュースレター20209月号(日本語版)【ポリシーブリーフ発行、他】

 
 日増しに秋の気配を感じられるようになりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。新型コロナウィルス感染症の流行がなかなか収まらないため、IPSI事務局は在宅勤務を続けてはいるものの、「自然と調和する社会」に向けたランドスケープ・シースケープ・アプローチに関連する様々なプロジェクトや活動に積極的に取り組んでいます。皆様も引き続き健康と安全に留意してお過ごしください。

さて、20209月号のIPSIニュースレターをお届けします。日本語では概要のみご紹介しておりますので、詳細は本文をご覧ください。



1.ポリシーブリーフ 「ポスト2020生物多様性政策に向けたランドスケープ・アプローチ:社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープからの視座」を発刊

 IPSI事務局を務める国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)は、「ポスト2020生物多様性政策に向けたランドスケープ・アプローチ:社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープからの視座(Landscape Approaches for the Post-2020 Biodiversity Agenda: Perspectives from Socio-Ecological Production Landscapes and Seascapes)」と題したポリシーブリーフを発行しました。UNU-IAS研究員の西麻衣子と、日本国環境省の山崎麻里氏が執筆し、ランドスケープ・アプローチを「生物多様性国家戦略及び行動計画 (National Biodiversity Strategies and Action Plans:NBSAPs)」といった国家政策や生物多様性条約(CBD)にて策定中のポスト2020生物多様性枠組に組み込むための政策立案者へのガイダンスを提供しています。ランドスケープ・アプローチの特徴および政策過程との関連性を示し、政策立案者や利害関係者に対して、生物多様性2050年ビジョンである「living in harmony with nature(自然との共生)」を実現するためにランドスケープ・アプローチをうまく活用することを提案しています。

 本ポリシーブリーフ(英語)はこちらよりごダウンロードいただけます。

2.「Local Biodiversity Outlooks Second Edition(地域生物多様性概況第2版)の公表

 IPSIメンバーのフォーレスト・ピープルズ・プログラム(FPP)は、2020年9月16日に行われたオンラインイベントを開催し、「Local Biodiversity Outlooks(地域生物多様性概況)」の第2版(LBO-2)を公表しました。本報告書は、画期的な共同研究と分析を持って「Global Biodiversity Outlook (地球規模生物多様性概況)の関連文書としての役割を担っています。世界中の先住民や地域コミュニティが地域単位で経験している生物多様性の問題に焦点を当てており、IPSIやIPSIメンバーの事例も掲載されているので、是非ご覧ください。

 オンラインイベントは、「Special Virtual Sessions of the CBD SBSTTA(生物多様性条約科学技術助言補助機関会合特別オンラインセッション)」の一環として開催されました。本イベントの詳細はCBDウェブサイト(英語)で、イベントの様子はこちらでご覧いただけます。

 併せて、「地球規模生物多様性概況第五版(GBO-5)」も発行されましたのでご覧ください。愛知目標において、いずれの目標も完全に達成できたものはなかったこと、2050年ビジョン「自然との共生」の実現には、生物多様性の保全・再生に関する取組のあらゆるレベルへの拡大が必要であり、生物多様性の要因への対応に加え、生産・消費様式の変革及び持続可能な財とサービスの取引、気候変動対策といった様々な分野での行動を、統合的に連携させていくことが必要と指摘しています。なお、SATOYAMAイニシアティブは、愛知目標7(持続可能な農林漁業)の取組事例として紹介されています。


 

3.新記事紹介ガラパゴス諸島のランドスケープ・アプローチ

 IPSIメンバーのコンサベーション・インターナショナル(CI)のウェブサイト上に、「In Galápagos, novel conservation approach finds ‘sweet spot’ between production, protection」と題したランドスケープ・アプローチについての記事が公開されました。CIにおけるIPSI担当者であるスコット・ヘンダーソン氏による本記事は、SATOYAMAイニシアティブが推進するランドスケープ・アプローチのような取組が、実際に如何に機能するかを、ガラパゴス諸島における優れた実例をもって説明しています。是非ご一読ください。

 記事の詳細は、CIウェブサイトでご覧いただけます。


4.IPBES侵略的外来種に関する評価報告書外部レビュー

 生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)は侵略的外来種に関する評価報告書の初めての外部レビューを開始したことを告知しました。同評価報告書は侵略的外来種の影響、要因、管理、課題に対応するための政策オプションに関する現況および傾向を評価し、地域コミュニティおよび先住民の様々な知識や価値システムを考慮して作成されます。政策決定者に侵略的外来種の予防および適応管理戦略を含む柔軟かつ現実的な対応策を示す解決志向型の報告書となります。関心をお持ちの方は是非外部レビューにご参加ください。

 レビュ―ワ―登録方法を含む詳細についてはIPBESのウェブサイト(英語)をご覧ください。


5.モーリシャス沖重油流出事故への支援

 

 IPSIメンバーであるモーリシャスの環境保護保全団体(EPCO)は、新型コロナウィルス感染症の流行、および202087日に発生した同国沖27㎢の海域に約1千トンの重油が流出した事故で被害を受けている13漁村の脆弱なコミュニティを支援しています。これらのコミュニティは、主に観光業と漁業で生計を立てていましたが、この5ヵ月は観光客が皆無だったため、もっぱら漁業や礁湖の海洋資源に頼ってきました。漁民や海域利用者は、この重油流失事故によって、もう二度と生活を立て直すことができないのではないかと懸念しています。

 EPCOは、この沿岸地域コミュニティにおいて、タコの養殖、湿地の改良、マングローブのプランテーション、ラグーンの浄化、泥ガニの養殖など長年にわたり多くのプロジェクトに取り組んできた実績があります。クラウドファンディングにより集まった寄付金は、裏庭農業、養鶏、動物の飼育、手工芸品作りなどの代替生計手段を提供するための能力構築や実証プロジェクトの実施に使用される予定です。また、新しい生計手段を確保するためのスタートアップ・シード・ファンド制度を立ち上げるためにも活用されます。

 本クラウドファンディングの詳細はこちら(英語)をご覧ください。

 

 

6.新メンバーの紹介:スガンティ・デバダソン海洋研究所(SDMRI

 SDMRIは、1998年にインド南部のタミル・ナードゥ州にある都市トゥティコリンに設立された研究および高等教育のための非政府組織です。SDMRIの研究は学際的で、主にサンゴ礁や海草藻場といった特定の沿岸生息域の海洋・沿岸生態系の保全と管理、および関連する生物多様性(調査、評価、モニタリング、回復)に焦点を当てています。その他、統合影響評価(環境・社会)、汚染モニタリング(重金属、農薬、微小~大型の海洋プラスチックを含む海洋ごみ)や利害関係者の意識向上や能力構築支援も行っています。

 サンゴの健康と回復に注目した研究開発活動は、人為的(主に破壊的な漁業と採掘)および自然的(主に気候変動)要因によって劣化した海域におけるサンゴや海草の生息域の拡大に役立ちました。沿岸生息域の喪失は水産資源の枯渇を引き起こし、漁民の生計や社会経済的状況に多大なる影響を及ぼします。特にサンゴと海草の回復の取組み、並びに人工サンゴ礁の整備は、生物多様性だけではなく、サンゴ関連の水産資源で生計を立てている20万人を超える小規模漁民の保護と向上にも寄与しました。また沿岸においては、沿岸域の住民への持続可能な海洋資源の利用に対する意識向上にも積極的に関与しています。

 本団体に関する詳細はこちら(英語)からご覧いただけます。


7.ケーススタディ紹介:国立東華大学(台湾)

 今月はIPSIメンバーである台湾の国立東華大学のケーススタディ「台湾の事例:価値の調和とシナジーの拡大のためのマルチステークホルダーによる包括的なランドスケープ・アプローチに向けて」をご紹介します。本ケーススタディはSATOYAMAイニシアティブ主題レビュー第五巻「社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープ(SEPLS)における持続可能な利用に関する多様な価値の理解(Understanding the Multiple Values Associated with Sustainable Use in Socio-ecological Production Landscapes and Seascapes)」にも掲載されています。

 本ケーススタディでは、2016年から2017年にかけて花蓮県新社村にて「森海エコ(生態)農業イニシアティブ」を共同で計画・管理するプロセスについて分析しました。沿岸山脈の国有林と太平洋の間の集水域に、クバラン族の新社(Xinshe)部落とアミ族の復興(Dipit)部落の二つの原住民族とその農地が位置しています。部落間では水の利用や狩猟、漁業権に関する衝突が度々起こってきました。セクターにより、異なる政府機関が別々に衝突の解決に努めてきましたが、異なる価値観の和解と相乗効果の拡大に向け、多様な利害関係者による包括的なランドスケープ・アプローチと分野横断的な共同ガバナンスが必要とされていました。本ケーススタディは、リスク要因およびその解決策を示しつつ、知的資本、社会的資本、政治的資本の統合が、多様な利害関係者の価値観の橋渡しに役立つと共に、境界を越えた住民のつながりを醸成し、当該地域に関わる政府機関のセクターを越えた一貫性を促進し得ることを示しています。本ケーススタディの詳細はこちら(英文)をご覧ください。

 本ニュースレターで共有を希望されるイベント等の情報がございましたら、IPSI事務局までご連絡ください。また、日本語の記事をお送りいただければ日本語版ニュースレターに掲載いたします。皆様からの情報提供をお待ちしております。

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SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)事務局

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