International Satoyama Intiative

SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)は、持続可能な社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープ(SEPLS)の価値を世界で広く認識してもらうことによって、その保全と再生を促進する取り組みです。

IPSI運営委員会メンバーによるセミナー実施報告

2012年12月18日、国連大学高等研究所(UNU-IAS)において、スワミナサン研究財団地域農業生物多様性センター長でIPSI運営委員会のメンバーでもあるアニル・クマール氏をスピーカーとしてお招きし、『インドにおける農業生物多様性コミュニティマネジメント』と題したセミナーを開催しました。

ア ニル・クマール博士は、講演の初めに、生物多様性保全に関係する取組を概観すると同時に、取組に重要な点について自らの考えを述べました。まず、1970 年代以降の国際的取組の変遷をたどり、最近開催されたCBD-COP11(2012年10月 )での資源動員に関する成果について言及した後、インドにおける生物多様性保全関連諸制度について、例えば生物多様性法(Biodiversity Act 2002)の下に、3つの行政レベルに対応した実施体制がそれぞれ設定されていることなどを説明しました。そして、生物多様性保全には、法制度、経済、社 会・行動、科学技術、認識等の多様な側面があり、様々なセクターの協力が必要であること、また、科学者だけでなく地域コミュニティの関与が重要であること を強調しました。

次にクマール博士は、農業生物多様性と地域コミュニティの関係について議論を深めました。まず、農業生物多様性には二つの 役割があり、一つは土壌形成や花粉媒介等の基盤サービスや調整サービスを通じてそれぞれの地域の農業生態系を維持すること、もう一つは農産物等の生産など の提供サービスの形で、地域の食料・栄養の安全保障を支えることを説明しました。一方で、食料の安全保障と農業生物多様性にはトレードオフの側面もあり、 世界に30万ある植物種のうち、わずか30種によって90%ものカロリーが供給されているとするFAOの推計を紹介しました。しかし、現在は重要視されて いない種には、栄養面での安全保障に貢献する種や、気候変動等による環境変化にも適応しうる種、土壌環境の向上に貢献する種など、多くの有益な種が含まれ ており、多様な種を栽培し保全することの意義を強調しました。そういった中で、地域コミュニティは、1)遺伝資源を育成・保全し、向上させること、2) 遺伝資源から得られる便益を、食料など具体的な物やサービスとして提供すること、3) それらの交換や流通、4) 持続的な形での消費、という4つの方法を通じて農業生物多様性の保全に貢献し得ると述べました。

続いて博士は、MSスワミナサン研究財団 (MSSRF)における農業生物多様性保全・地域活性化を目的とした二つのプロジェクトを紹介しました。まず、MSSRFでは参加型・学際的なアプローチ がとられ、プロジェクトのあらゆるプロセスが、地域コミュニティとMSSRFの科学者の協働により実施されていると説明しました。一つ目の事例として、ケ ララ州の丘陵地帯に位置するワヤナド地区のChaliyarおよびKabani集水域をあげ、古くから維持されてきた高い農業生物多様性が、近年の農業近 代化により危機に瀕していること、MSSRFでは多様な栽培種を保全しつつ商用価値を見出す方法を探っていることを紹介しました。二つ目の例として、ケラ ラ州Kuttanad 地域を挙げ、海抜ゼロメートル地帯に水田が広がるめずらしい環境で高い農業生物多様性やユニークな農法が育まれ、GIHASサイトとして認定されているこ と、今後さらなる地域活性化のために、MSSRFの研究者がコミュニティとともに活動を行っていること紹介しました。

アニル・クマール氏講演の様子

アニル・クマール氏講演の様子

最後に博士は、 MSSRFの提案する4つの「C」からなる生物多様性管理のための枠組みを説明しました。これらは、栽培(Cultivation)、保全 (Conservation)、販売(Commerce)、消費(Consumption)からなるものであり、4つのCのつながりが重要とである述べま した。そして、これらがSATOYAMAイニシアティブの長期目標である「自然共生社会の実現」に資するものであるとしました。またイニシアティブの掲げ るアプローチのうち「伝統的知識と近代科学の融合」についてもふれながら、地域コミュニティと科学者の協力の必要性、地域レベルの生物多様性保全の重要性 を再度強調しました。

クマール博士の発表の後、マヌ・マタイ博士(UNU-IASリサーチフェロー)が農業生物多様性に関する問題の背景と して、各国に共通して存在する、都市化やグローバリゼーションに伴う農業や地方の衰退の問題があり、それに対し、SEPLSがどう活性化され得るのか問わ れていると述べました。

その後の質疑応答では、地域政府の役割や、健康や安全などの農業の新たな価値など、様々な点について活発な議論が交わされました。

当日の録画ビデオおよびフォトギャラリーは、こちらをご覧ください。

アニル・クマール氏講演の様子
ディスカッサント、マヌ・マタイ氏