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SEPLSのレジリエンスの指標に関するセミナーの開催報告

2013.04.22

社会生態学的生産ランドスケープ(SEPLS)のレジリエンスに関するセミナーが、偶然にも4月22日のアースデイに国連大学高等研究所にて開催されました。バイオバーシティインターナショナルおよび国連開発計画(UNDP)の専門家の講演を聞くため、多くの専門家や聴衆が集まりました。


セミナーのはじめに鈴木渉氏(UNU-IAS SATOYAMAイニシアティブコーディネーター)が講演者へ歓迎の挨拶を述べました。また鈴木氏はセミナーのテーマである、SEPLSのレジリエンスを測るための指標開発とその試験適用に関する活動について、これまで関係機関の協力の元で実施されてきた経緯を説明しました。SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)は、SEPLSの保全や活性化に取組む130以上の団体から構成されており、SEPLSに関する重要な課題に対してメンバーが協力して活動を展開する環境や枠組みを提供しています。この枠組みのもとで、IPSIメンバー団体であるバイオバーシティインターナショナルと国連開発計画(UNDP)が先導的な役割を担い、20指標で構成されるSEPLSのレジリアンス指標の開発と試行が実施されてきました。セミナーでは、バイオバーシティインターナショナルのナディア・バーガミニ氏と、UNDPのディアナ・サルベミーニ氏がこの活動に関するそれぞれの団体の経験について発表しました。

バーガミニ氏は講演のはじめに、社会生態学的生産ランドスケープ(SEPLS)の概念について説明しました。SEPLSは人と自然の調和的な相互作用により形成された土地利用やハビタットのモザイクで、生物多様性や生態系サービスを維持しながら人々の福利を育んできました。バーガミニ氏は続いて、「レジリエンス」の分かりやすい定義を利用して、レジリエンスの指標は、コミュニティが生物多様性を維持しながら変化に適応する能力を測るために役立つと述べました。

バイオバーシティインターナショナルと国連大学高等研究所が実施するインディケーターの開発と試行に関する協力研究の目的には、農業やその他の土地管理が生態系の健全性や人間の福利にもたらす影響を測る方法を開発することや、コミュニティが変化に適応し、新たな方法を生み出し、SEPLSのレジリエンスを維持する能力を評価することなどがあります。これを測る20の指標は、①生態系の保全と生物多様性の維持、②農業生物多様性、③知識・学習・革新、④社会的公正とインフラストラクチャーの4つのカテゴリーに分類されています。

今日まで、バイオバーシティインターナショナルはキューバ(Cuchillas del Toa生物圏保護区)、ケニア(Kituiランドスケープ)、ボリビア(Candelariaランドスケープ)、ネパール(Begnasランドスケープ)においてインディケーターを試験適用しています。これらの取組では、より望ましいインディケーターの適用方法の検討や、各地域のレジリエンス向上につながる要因の理解に役立つ、様々な結果や教訓が得られています。また、バーガミニ氏は、インディケーターの利用が、コミュニティレベルにおいて、ランドスケープの弱点やその解決法の共通理解を促し、レジリエンス強化のための方策決定に役立つことを特に強調しました。最後に今後の展望として、インディケーターが、草地、湿地、沿岸域などより多様な環境を含むSEPLSにおいて試行されることが重要であると述べました。

 

続いて講演を行ったディアナ・サルベミーニ氏は、UNDPにおいて、IPSIにおける協力的な取組であるSATOYAMAイニシアティブ推進プログラム(Community Development and Knowledge Management for the Satoyama Initiative Project: COMDEKS)のコーディネーターを務めています。COMDEKSは、日本生物多様性基金から資金協力を得て、UNDPが日本政府環境省、国連大学高等研究所、生物多様性条約事務局との協力のもとで実施しているユニークなプロジェクトです。プロジェクトの第一フェーズでは10カ国(カンボジア、エチオピア、マラウイ、スロバキア、インド、ネパール、トルコ、ガーナ、フィジー、ブラジル)を対象に、ランドスケープレベルでの持続的管理を行うアプローチの促進に資する地域コミュニティの活動を支援しました。今年後半に開始される第二フェーズでは、さらに10カ国を支援します。第一フェーズの10カ国では、沿岸地域、河川流域、放牧システム、低地や高地、島嶼生態系等の様々な特徴を含むランドスケープが対象として特定されました。バイオバーシティインターナショナルと国連大学高等研究所により開発されたレジリエンスの指標は、第一フェーズで対象となっているランドスケープの社会生態的なレジリエンスを測定・理解し、その強化に必要な活動を特定するためのツールとして用いられました。レジリエンスの評価は、地域住民およびランドスケープの利用・保全に関わる多様な主体が関与する参加型プロセスを通じて行われ、評価結果の分析は、引き続き実施されるランドスケープ戦略の作成に貢献しました。この戦略にもとづいて、COMDEKSによる資金援助の実施に適当なコミュニティの取組が特定されています。

サルベミーニ氏は、指標の適用から得られた教訓について、指標の利用は関係者の参加を促す方策として参加者から評価されたものの、より成功に近づけるためには、参加者が明確に理解できるような地域の状況に合った用語の使用と、コミュニティの状況を理解し地域の行政機関を巻き込む能力を持つファシリテーターの存在が必要であると述べました。また、写真等の視覚資料は、保全の優先度を空間的に示す参加型マッピングとともに、重要なコミュニケーションツールとなり得ることを紹介しました。最後に今後の展望として、サルベミーニ氏は、スコアシステムの改良と社会面に関する指標の強化の必要性を強調しました。

二人の講演の後、スニータ・サブラマニアン博士(UNU-IAS)のコメントにはじまるディスカッションセッションに移りました。サブラマニアン氏は、インディケーターが、SEPLSの機能の一貫性に寄与する社会的および生態的な両方の要素を網羅していることの重要性を強調しました。全体的アプローチは、政策立案者にとって有用な理解をもたらすとともに、コミュニティレベルにおいて、必要な活動を戦略的に特定したり、対処が必要な事柄を認識するのに役立ちます。また、サブラマニアン氏はインディケーターの適用の際に用いられたフォーカスグループディスカッションが、コミュニティの自然資本や社会資本に関するより大きな議論へのきっかけとなり得るものであると述べました。

なお、このセミナーと同時に、UNU-IAS ポリシーレポート「Developing Indicators of Resilience in Socio-ecological Production Landscapes」が出版されました。この最新レポートおよび、過去のUNU-IAS ポリシーレポートは、国連大学高等研究所のウェブサイトにてダウンロード可能です。

Downloads

ナディア・バーガミニ氏(バイオバーシティインターナショナル)講演資料
ディアナ・サルベミーニ氏(UNDP)講演資料
IASポリシーレポート ”Indicators of Resilience in Socio-ecological Production Landscapes (SEPLs)”