SATOYAMAイニシアティブ
SATOYAMAイニシアティブとは
SATOYAMAイニシアティブは、生物多様性の保全と人間の福利向上のために、里山のような人間が周囲の自然と寄り添いながら農林漁業などを通じて形成されてきた二次的自然地域の持続可能な維持・再構築を通じて「自然共生社会の実現」を目指す国際的な取組です。日本では里山や里海と呼ばれるこれらの地域では、人間と周囲の自然が調和し、その相互作用により生物多様性が維持されると共に、人々の暮らしや福利に必要なモノやサービスが持続的に供給されています。このような地域を世界で認識できるように、「社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープ(SEPLS)」と呼んでいます。本イニシアティブは日本国環境省と国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)が共同で提唱しました。
SATOYAMA イニシアティブの概念図
1.長期目標
本イニシアティブの長期目標は「自然共生社会の実現」、すなわち、社会経済活動の維持・発展が自然のプロセスと調和した人間社会を実現することです。我々は、生物多様性をはじめとする資源の持続可能な利用と管理を通じて、自然の恵みを安定して享受でき、自然環境を損なわない形で存続する仕組みを構築していかなければなりません。このような自然資源、自然環境の持続可能な管理のためのランドスケープ・アプローチは、近年注目を集めており、SATOYAMAイニシアティブの概念の中核をなしています。
2.3つの行動指針
本イニシアティブでは、より持続可能な形で土地及び自然資源の利用と管理が行われるランドスケープの維持・再構築を目指し、以下の3つの行動指針を提案しています。
- 多様な生態系のサービス(恩恵)と価値の確保のための知恵の結集
- 革新を促進するための伝統的知識と近代科学の融合
- 伝統的な地域の土地所有・管理形態を尊重した上での、新たな共同管理のあり方 (「コモンズ(共有財・共同管理制度や共同管理の対象である自然資源そのもの)」の発展的枠組み)の探求
人間の福利の向上をもたらす多様な生態系のサービスと価値を理解し、これらサービスの確保に向けて知恵を結集することは、ランドスケープ・アプローチに必要不可欠な要素です。また、革新を促すため、伝統的知識と近代科学の相乗効果を生み出すことも重要です。さらに、伝統的地域の土地所有権を必要に応じて尊重しつつ、土地所有者や地域住民だけでなく、生態系サービスの恩恵を受けている多様な主体が参画する新たな共同管理システムや 「コモンズ」の発展的な枠組みを探求することも極めて重要です。
3.6つの生態学的・社会経済学的視点
上記の行動指針に沿って、それぞれの地域において社会生態学的生産ランドスケープの維持・再構築、すなわち自然資源の持続可能な利用と管理を実践していく際には、以下6つの生態学・社会経済学的視点が重要であると考えられます。
- 環境容量・自然復元力の範囲内での利用
- 自然資源の循環利用
- 地域および先住民の伝統・文化の価値と重要性の認識
- 多様な主体の参加と協働による自然資源と生態系サービスの持続可能で多機能な管理
- 貧困削減、食料安全保障、生計維持、地域コミュニティのエンパワーメントを含む持続可能な社会経済への貢献
- 特に気候変動の緩和および適応活動のための生態系に基づくアプローチを通じた、生態学的、社会的、文化的、精神的、経済的便益を含む多様な恩恵を享受するための地域社会のレジリエンス向上
4.SATOYAMAイニシアティブの歴史
SATOYAMAイニシアティブは、グローバルな視点の下、SEPLSにおける資源の持続可能な利用に関する世界各国の専門知識の結集を目指し、一連の会合や協議を経て発展してきました。なかでも大きな契機となったのが、2010年1月にパリの国連教育科学文化機関 (UNESCO) 本部で開催された 「SATOYAMA イニシアティブに関する国際有識者会合(パリ会合)」です。同会合では、これに先立ち開催された2つの準備会合(第1回は2009年7月東京開催、第2回は2009年10月マレーシア・ペナンで開催)の成果に基づき、本イニシアティブの概念について議論され、その活動分野の明確化が図られました。そして、パリ会合の重要な成果の一つとして「SATOYAMAイニシアティブに関するパリ宣言」が採択されました。同宣言は後に公式文書の一つとして、生物多様性条約第14回科学技術助言補助機関会合(SBSTTA14)に提出され、2010年に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(CBD COP10)において、SATOYAMA イニシアティブが承認される際の基本文書となりました。
CBD COP 10では、本イニシアティブについて「生物多様性及び人間の福利のために、人為的影響を受けた自然環境をよりよく理解し支援する有用なツールとなりうるもの」として支持したCBD COP10 決定X/32も採択されました。COP10会期中の2010年10月19日には、「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ (IPSI)」が、本イニシアティブに基づく取組の促進と知見の共有を目的に創設され、51団体が創設メンバーとして加入しました。また、決定X/32は、IPSIをSATOYAMAイニシアティブにより特定された活動を推進するメカニズムの一つとして留意すると共に、CBDの締約各国、その他政府、関連組織に対して、同イニシアティブの更なる推進に向けて、IPSIに参加するよう招請しました。