2022年9月20日、IPSI事務局を務める国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)は、「里海再生に向けた地域社会の主体的活動とガバナンス」 というテーマでオンライン・シンポジウムを共催しました。本イベントでは、2022年2月に「国連生態系回復の10年」の一環として立ち上げられたイベントシリーズ の2回目として、沿岸生態系回復の事例におけるブルーカーボン(藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた炭素)と市民科学に焦点が当てられました。本イベントは、笹川平和財団海洋政策研究所(OPRI)および日本国環境省の協力により開催されました。
開会にあたり、IPSI事務局長の渡辺綱男氏は、生態系を回復することは気候変動の緩和に役立つだけでなく、人類の持続可能な未来を生み出すことにもつながると強調しました。またUNU-IASは、OPRIと協力しながら、地域社会が主体的に管理することで生物多様性の保全が促進される沿岸海域である里海において、再生プロジェクトを推進しているとも述べました。OPRIの阪口秀所長は、われわれはまだ海について学ぶべきことがたくさんあると指摘した上で、現在の問題の全体像を認識するためには、より多くの研究と資源が必要であると述べました。OPRIの豊島淳子研究員は、魚の組成や季節性、養殖生産、日本の沿岸生態系の劣化など、気温上昇による変化を示したOPRIの研究を紹介しました。IPSI事務局次長の柳谷牧子氏は、気候変動が急速に進んでいること、そしてブルーカーボンと市民科学の取り組みが里海再生を促進するために重要であることを改めて指摘しました。
第1部では、世界各国の市民科学の取り組みに関する研究事例が紹介されました。インドネシアのプロジェクトに関する議論では、携帯電話のアプリケーションを使用することによって、市民がデータのモニタリングや収集を行なったことが取り上げられました。東京大学の牧野光琢教授は、研究過程でコミュニティの声を尊重した参画がなされると、市民の関与がより深まることを強調しました。メリーランド大学のウィリアム・デニソン教授は、米国チェサピーク湾沿岸部生態系の複合的価値をよりよく理解するための、市民と研究者を結びつける協働プロジェクトについて紹介しました。海辺つくり研究会の古川恵太理事長は、情報発信が市民の東京湾再生への関心を高める強力なツールになると述べました。
第2部では、インターナショナル・ブルーカーボン・イニシアチブ 科学作業部会のステファン・クルックス共同議長によって、沿岸部および海洋生態系の回復と持続可能な利用を通じて気候変動の緩和に取り組むグローバルなプログラムである、インターナショナル・ブルーカーボン・イニシアチブの取り組みが紹介されました。ジャパンブルーエコノミー技術研究組合の信時正人理事は、生態系により多くのCO2を吸収させる技術開発の必要性を強調しました。里海づくり研究会議の田中丈裕理事兼事務局長は、参加した漁師が子どもたちに健全な生態系の重要性の伝達を行っている、岡山県のアマモ場再生の取り組みについて発表しました。
東京大学の原田尚美教授がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、生態系回復の障壁を克服するためには、データの共有、多様なステークホルダーとの連携、統合的アプローチが不可欠であることが強調されました。国土交通省港湾局海洋・環境課 港湾環境政策室の青山紘悦室長と環境省自然環境局自然環境計画課の守容平専門官は、省庁間の連携と地域プロジェクトへのさらなる支援の重要性を強調しました。
閉会挨拶で、環境省自然環境局の奥田直久局長は、環境省が再生活動への市民参加を促進するような政策や仕組みの整備を進めてきたことについて述べました。
本イベントの録画ビデオは、UNU-IASのYouTube チャンネルにてご視聴いただけます。