IPSIニュースレター2021年4月号

2021.04.28

 晩春の候、皆様いかがお過ごしでしょうか。新型コロナウィルス感染症の収束が未だ見えない中、IPSI事務局は在宅勤務を続けてはいるものの、「自然と調和する社会」に向けたランドスケープ・シースケープ・アプローチに関連する様々なプロジェクトや活動に積極的に取り組んでいます。皆様も引き続き健康と安全に留意してお過ごしください。

 さて、2021年4月号のIPSIニュースレターをお届けします。日本語版では概要のみご紹介しておりますので、詳細は本文をご覧ください。

1.IPSI活動の最新情報

 第15回IPSI運営委員会の補助会議が3月末にオンラインで開催されました。本会議では、パートナーシップの初期段階に策定されたIPSI戦略およびIPSI行動計画2013-2020(PoA)の改定プロセスについて議論されました。改定の目的は、私たちの10年の経験、ポスト2020生物多様性枠組、持続可能な開発のための2030アジェンダといった、進展を反映し、より戦略的で行動志向的なものとすることです。委員の助言を受け、IPSI事務局は現在、IPSI行動計画改定のための小委員会設置に向けた準備を進めています。今後の進捗についてはメール、ニュースレター、IPSIウェブサイト等でお伝えする予定です。

 また、IPSI事務局は、すべてのIPSIメンバーを対象に、新型コロナウィルス感染症による地域コミュニティや社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープ(SEPLS)への影響についてのアンケート調査を4月7日~25日に実施しました。本調査の結果は、様々な生態学的、社会的、経済的ショック・混乱に対処するためのSEPLSにおけるレジリエンスを促進するための戦略策定や、IPSI行動計画の改定、ポスト2020生物多様性枠組(GBF)およびその目標のランドスケープレベルにおける効果的な実施の促進に活用させて頂きます。ご協力頂いた皆様、ありがとうございました。

2.刊行のお知らせ:「SATOYAMAイニシアティブ主題レビュー第6巻」

 国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)と公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)は、「SATOYAMAイニシアティブ主題レビュー(SITR)」第6巻を刊行しました。SITRは年次刊行物ですが、今回初めてシュプリンガー出版社を通してオープンアクセス出版されました。本巻は「社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープ(SEPLS)とサステイナビリティに向けた社会変革(Fostering Transformative Change for Sustainability in the Context of Socio-Ecological Production Landscapes and Seascapes (SEPLS)」をテーマとしており、SEPLSの取組が、文化的生態系サービスの提供、伝統的な知識や実践の保全といった、生物多様性の保全以外にも複数の恩恵をもたらし得ることを踏まえ、SEPLS管理と社会変革の概念との関連に焦点を当てています。本書は、世界中のIPSIメンバーより選定された11件のケーススタディ、およびそれらの総括を掲載しています。

 本書は、生物多様性および持続可能な開発目標の効果的な実施に向けて、政策立案者や実践者、研究者など幅広い読者に向けて有益な知見や教訓を提供すると共に、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)による「生物多様性の損失の根本的要因、変革の決定要因及び生物多様性2050ビジョン達成のためのオプションに関するテーマ別評価」にも貢献する予定です。

 本書は、こちら(英語)からご覧いただけます。

3.APN主催オンラインセミナーへの参加報告

 2021年3月28日、アジア太平洋変動研究ネットワーク(APN)と神戸大学農学部は、オンラインセミナー「身近な森のたくさんのふしぎ、たくさんの課題 -30年後の森林環境を考える-」を主催しました。本セミナーにおいて、IPSI事務局のイヴォーン・ユー(UNU-IAS研究員)が、「里山を元気にしよう!SATOYAMAイニシアティブから考える森林保全の重要性」と題した講演を行い、生物多様性や生態系と調和した付加価値の高い農林水産業を基軸とした、地域主体の複合型産業を育成することの重要性を強調し、優良事例としてIPSIおよびその取組を紹介しました。

 本セミナーの詳細は、こちらから、録画映像はこちらからご覧いただけます。

4. ケーススタディ紹介:中国科学院農業政策研究センター

 今月は、IPSIメンバーである中国の中国科学院農業政策研究センターのケーススタディ「Working with nature for a more resilient world to COVID-19: Inspirations from farmer communities in China」をご紹介します。

 本ケーススタディでは、中国のファーマーズ・シード・ネットワークおよびUNEP国際生態系管理パートナーシップ(UNEP-IEMP)の支援を受けて集められた中国の14の農村コミュニティの事例を紹介し、自然との協調が新型コロナウィルス感染症(COVID-19)や気候変動などの危機への対処と再生にどのように役立つかを示しました。本ケーススタディには、「農家は科学者と密に協力し、伝統的な知識を活用しながら、干ばつなどの気候リスクにより良く適応する作物品種を保存し、栽培しています。有機米の栽培にアヒルや魚の育成を組み合わせるといった、害虫駆除に資する伝統的な農法を復活させています。また、農場における生物多様性を高め、土壌と水のより良い管理のために、伝統的な間作を実践・促進しています。COVID-19が輸送や旅行を混乱させ続けている中、これらの農家は自然と協調することで、自分たちの農業コミュニティが気候変動だけではなく、COVID-19の影響に対してのレジリエンスも高めたことに気づきました。彼らは地元で種子を保存し繁殖させるので、種子の確保が保証されます。そして彼らの農場では多様な食物が栽培されているため、栄養価が高く手頃な食料の入手も確保されます。」と記されています。

 本ケーススタディの詳細はこちら(英語)をご覧ください。

5.コラム:元UNU-IASシニアコミュニケーションコーディネーター 、ウィリアム・ダンバーからのメッセージ

 IPSIメンバーの皆様、私は昨年末の契約終了までの約7年間、IPSI事務局に在籍していました。事務局の連絡窓口として、多くのIPSIメンバーと交流することができて光栄でした。退職に際し、多くの方から心温まるメールやメッセージをいただき、とても感謝しています。ランドスケープおよび生物多様性の保全に関する私たちの取組を大変誇りに思っていますが、私にとってそれ以上に大切なことは、多くの素晴らしい人々との出会いであり、そしてこの友好が今後も続きますことを願っております。

 今号のニュースレターへメッセージを送ることを依頼された時には、自分が注目を集めたり、おこがましくも自分の考察を誰かにお伝えするようなことに、躊躇しました。ただ、現在、療養中の親を訪れ米国に滞在しているのですが、UNU-IASを離れてからの時間と、コロナ禍により今世界中で起こっていること、そしてその他の様々な変化を踏まえ、今ここで振り返りをするというのも良いタイミングのように思えてきました。

正直に申し上げると、長年ランドスケープ・アプローチに携わり、それぞれのランドスケープに暮らす多くの方々を訪れるという機会は、ここアメリカでの暮らしからは思いもよらない事象に目を開かせてくれました。

故郷には愛すべきものが沢山ありますが、今私はこの地域の物理的ランドスケープにおける深刻な問題を感じています。法律により、この地域では、住民が広い芝生に囲まれた広大な区画に建てられた一軒家に住むことが義務付けられています。家と家が離れているため、公共交通機関は役に立ちません。ですから、全ての家庭に最低1台の車は必要です。街を出る際に近所の人たちと立ち話をする、といったことはなく、ただ車を運転し、多くの場合、近所にどのような人が暮らしているのかさえ知りません。事実上、公共空間で過ごす時間はなく、公共空間は整備されているのに、そこにはほとんどひと気がありません。

こうした個人所有の空間というのは、また一方で、芝生や道路、その他の非生産的なインフラの維持のための莫大な費用がかかります。まさにこのランドスケープの配置は、コミュニティの創出を妨げ、人々を持続不可能な生活に追い込むようにデザインされているように思われます。主にこの状況は、人口密度を高めて、人々が豊かに暮らすための生産的な土地利用を可能にするようなランドスケープのデザインを、文字通り不可能にしている政策に起因するものです。社会、環境、そしてランドスケープの物理的な形態はすべて深く関連しており、最終的に私たちの暮らしの多くの様相を、良くも悪くも決定づけます。そして、COVID-19のパンデミックが人と人との距離をさらに保つことを強いていることで、この状況に拍車がかかっています。

パンデミックは、経済的、環境的、そしておそらく最も重要なこととして、人間らしさという意味合いにおいて、計り知れない負担となり続けています。大規模なワクチン導入によって、例えもし正常な状態に戻り始めたとしても、このことを無視したり、過小評価してはいけません。ランドスケープ・アプローチの精神は、より広く包括的な視点で物事を捉えるということです。この意味において、現在の状況は本当に異常事態なのでしょうか、それとも地球上でより持続可能な生き方を見つけない限り延々と続く、危機の発生とそれへの近視眼的な対応という現在進行形のサイクルにおいて生じる一つの極端な例なのかを問う価値はあります。

こうした考察からの、この問への検討のための提案なのですが、皆様も一度、自分たちの暮らしている場所を丁寧に見つめ直し、あなたの暮らすランドスケープの物理性が社会にどのように影響しているか、そしてその逆方向の影響についても同様に考えてみることはいかがでしょうか。皆様の地域に住む人々が、より充実した暮らしを送れるように、ランドスケープをデザインしていくことは可能でしょうか?多重の尺度にわたってランドスケープを捉えるという精神から、地球規模、国、地域の、そしてさらに私たち一人一人の暮らしのレベルにおいて、人生を充実させ、価値あるものにするためにどのようなことが出来るでしょうか?

 私が今滞在している場所では、季節外れの寒さがやってきました。花々が咲いている木々も、4月の雪に覆われています。近所の人々はどうしたって年は取っていきますし、病気で亡くなられる方もいます。行政機関は変化に抗い、意図せぬ結果を招く可能性のある政策決定を、善かれと思って行います。パンデミックやその他の災害が発生しては消え、ということが今後も続くでしょう。私たちは皆、何らかのランドスケープの中で生きていかなければなりません。私がここ数年学んだことは、もし私たちが自分のランドスケープを良いものにして行けば、それは私たちのより良い暮らしという結果になるのだろう、ということです。

皆さまの在任中のご支援とご愛顧に、改めて心より感謝申し上げます。

ウィリアム・ダンバー

 本ニュースレターで共有を希望されるイベント等の情報がございましたら、IPSI事務局までご連絡ください。また、日本語の記事をお送りいただければ日本語版ニュースレターに掲載いたします。皆様からの情報提供をお待ちしております。

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SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)事務局
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電話:03-5467-1212(代表)
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