International Satoyama Intiative

SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)は、持続可能な社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープ(SEPLS)の価値を世界で広く認識してもらうことによって、その保全と再生を促進する取り組みです。

石川県輪島市金藏地区における自然景観と伝統を活かした集落活性化

提出機関: ---
提出日: 03/05/2010
カテゴリー:
  • 凡例:森林
  • 凡例:農地
地区: 石川県 輪島市
国名: 日本
詳細地図: 詳細地図(Google map)
要旨: 東京から300kmに位置し、日本海に面する港町、輪島は、人口が減少しており、人々は農林水産業、漆器製造業と観光業に従事している。半島の60%が森に覆われ、(長年にわたる人の働きかけ自然の営みとのバランスによって形成された棚田を中心とする)二次的自然が多く存在し、貴重な植物種の生育地や、オオサンショウウオの生息地を提供している。

金蔵は、かつて地域の中心コミュニティとして繁栄していたが、1990年代 半ばから都市への人口流出や高齢化が進んでいる。2000年に、地域住民の有志により、コミュニティを再活性化させるための精神的、文化的支えとなる「金蔵学校」が結成された。

金蔵学校は、かつての豊かな集落を再現するため、外部との交流の活性化し、大都市の人々をひきつける取組をコミュニティ全体で行っている。生物多様性の面からは、放棄水田の再生を行うことで多様な種が生育する環境が、単一な植生に変化することを防いでいる。

金蔵学校は、金蔵の集落そのものを「やすらぎの里」と称するエコミュージアムとして、整備を実施した。周囲の里山では研究プログラムが設立したり、観光客の増加や地元特産物の人気向上が見られるなど、取組は成功している。
キーワード: 水田、エコツーリズム、コミュニティの活性化
著作者について: 松井孝子 株式会社プレック研究所環境共生部部長。1982年より現職。これまで自然環境の保全・活用に関する調査・計画、地域づくりにおける市民参加・合意形成支援、環境アセスメント技術ガイド作成等の業務に従事。現在はSATOYAMAイニシアティブ関連業務、自然公園に関する調査・計画業務などを担当。

河島泰斗 株式会社プレック研究所環境共生部次長。1997年より現職。これまで自然環境の保全・活用に関する調査・計画、農地保全・農業振興に関する調査、地球温暖化対策に関する計画等に従事。現在はSATOYAMAイニシアティブ関連業務、農業と生物多様性に関する調査業務などを担当。

笠原岳洋 株式会社プレック研究所環境共生部研究員。2008年より現職。これまで自然環境の保全・活用に関する調査・計画、環境影響評価等に従事。現在はSATOYAMAイニシアティブ関連業務、自然公園に関する調査・計画業務などを担当。
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石川県輪島市の金蔵地区では、地元住民の団体である「NPO法人 金蔵学校」が中心となり、地域の自然景観や伝統文化を活かしたエコツーリズムや商品販売などが行われている。 金蔵学校は、金蔵の集落が外部との交流によって存続してきた歴史に着目し、かつてのような豊かで活気のある集落の復活を目指している。

1 地域の概況

日本の石川県輪島市は、首都・東京から約300km、石川県庁から約100km(何れも直線距離)に位置する農山村地域である。

日本海に面する輪島は、古代より大陸及び日本各地との交易港として発展してきた古い歴史を持つ地域である。輪島市の1984年の人口46,024人であったが、都市部への人口流出が進み、2009年には32,518人にまで減少している(25年間で約3割減少)。輪島市の基幹産業は、農林水産業、漆器製造業、観光業等である。

輪島市域は半島の北部に位置しており、その多くが起伏のある丘陵地や山地で占められている。気候は温暖かつ湿潤であり、年間平均気温は13.2℃、年間降水量は2,156.5mmである。市域の約60%が山林であり、主にコナラ二次林やスギ・ヒノキ等の植林からなっている。川沿いの低地や盆地部には水田が存在する。

本地域には、長年にわたる人の働きかけと自然的営力のバランスによって形成された、棚田を中心とした二次的自然が多く存在し、日本版レッドリスト記載種をはじめとする貴重な植物が多く生育している。山腹や山麓には湧水が多く、日本固有種であるホクリクサンショウウオの生息地となっている。能登半島は本種の主要な生息地である。

2 地域の自然資源の利用・管理の実態

2.1 自然資源の利用・管理の経緯と現状

輪島市の総面積42,624haのうち、山林が32,735ha(77%)、農地が4566ha(11%)となっている(2009年現在)。

事例地がある奥能登地域には起伏に富む丘陵地や低山地が多く、そのほとんどは森林で覆われている。川沿いや海沿いの平坦地を中心に集落や水田が分布している。

自然資源の利用・管理の現状は次の通りである。

  • 農地では食用として米、野菜、果樹などが栽培され、牧草地で家畜の飼育が行われている。
  • 森林では木材の他、食用きのこ類が生産されている。
  • 沿岸部から沖合かけての海洋では魚介類などの水産資源が食用として漁獲されている。
  • 農地、森林ともに多く存在する地域であるが、森林から堆肥を得て農地に利用するような、森林・農地の資源の循環利用は著しく減少している。

2.2 自然資源の利用・管理の問題点及び生物多様性への影響

輪島市をはじめとした奥能登地域では近年、都市部への人口流出等による人口減少や高齢化が著しく、雑木林や水田などの管理放棄が進んでいる。これまで、これらの場所は野生生物の重要な生息・生育地となってきたが、管理放棄により植生遷移が進み、環境が変わることで多様な野生生物が生息できる環境ではなくなりつつある。

例えば、事例地である金蔵の集落は多いときで104戸と大きな集落であったが、1900年代半ば頃から現在にかけて過疎化が進み、63戸まで減少してしまった。集落景観を形成している住居も3割以上が空き家となっている。高齢化もすすみ、半分以上の住民が65歳以上となっている。これらの要因から農林業の担い手不足が深刻な状況となっており、集落での人々の生活の礎であり、動植物にとっても貴重な生息・生育地となっている棚田の存続が危ぶまれている。

2.3 上記問題点の解決に向けた地域計画等

石川県は、ふるさと石川の環境を守り育てる条例」を制定している。石川県は、県土の6割以上が起伏のある地形と農地・二次林からなる里山的環境を有する県であり、里山的環境の保全・利活用が地域の環境保全及び地域振興と同義として捉えられている。そのため、この条例は里山的環境に特化した条例ではないが、石川県の里山的環境の保全に繋がるものである。

3.取組事例の内容

3.1 背景と経緯

【金蔵集落のはじまりと繁栄】

金蔵の集落の始まりは岩倉山金蔵寺を中心として栄えた寺荘園であると言われている。1300~1500年頃の金蔵は米を多産し、奥能登地域で最も豊かな集落のひとつであった。また、金蔵にはお寺があり、収穫された米は仏様に納めることとなっていたため、厳しい年貢の取立てからも逃れることができ、お寺を中心として栄えた。

その後、この地域の領主により全村焼き討ちにあうが、集落再生のために、外部からお寺を誘致した。その際に、各お寺と檀家との結びつきも維持するようにしたため、お寺で行われる定期的なお講の際には各檀家が金蔵の集落に集まった。この仕組みにより金蔵の集落の人口が減少しても交流人口を維持することができ、この地域の中心集落として再興されることとなった。

【近年の金蔵と「金蔵学校」の活動】

金蔵は1800年代になっても、この地域の中心集落であり、小学校や郵便局も設置されたが、1900年代半ば頃になると都市部への人口流出や高齢化が進行し、1997年には地理的にも文化的にも中心的存在であった金蔵小学校が廃校となった。

このような状況を踏まえ、2000年に地元の有志が集落に元気を取り戻すための団体を結成し、金蔵小学校にかわる心のよりどころという意味合いから「金蔵学校」と命名した。金蔵学校は、金蔵の集落を支えてきた「外部との交流」の活性化し、かつての豊かな集落を再現するため、「内部の結束力」を活かした地域ぐるみの活動を実施している。

当初は有志による活動であったが、現在は集落全戸が協力することで合意し、「NPO法人 やすらぎの里 金蔵学校」として活動している。

3.2 主な取組内容

金蔵学校では「私が先生、あなたが先生」を基本方針とし、それぞれが持ち寄った思い、考えを述べることで歴史、文化、自然、社会、健康、生活を考察する。以下の3つの活動方針を掲げている。

①「やすらぎの里、金蔵」を発見:今に残る地名の由来・伝説を訪ねる。お宮、お寺の由来を訪ねる。(地域資源の再発見)

②「なつかしき、ふるさとの味」を各地に発信:金蔵産コシヒカリとすわり汁、こげめしなど。(伝統的食文化の継承)

③「やすらぎの里、金蔵」を発信:四季折々の金蔵(集落、お寺の境内など)、山野草、花木を紹介。(伝統的景観の継承)

主な取組内容は、集落の歴史や自然環境の調査、散策コースの整備、特産品の開発、イベントの開催及び大学との連携である。

正願寺(金蔵五ヶ寺の一つ)

オープンカフェ「木の音」 (金蔵五ヶ寺の一つ、慶願寺内)

(写真出典:環境省自然環境局(2009)「平成20年度重要里地里山選定等委託業務報告書」)

4.SATOYAMAイニシアティブの視点から見た自然資源の利用・管理の実態

4.1 環境容量・自然復元力の範囲内での利用

本地域では自然環境の復元力が強く、人為的に植生遷移を止めなければ、徐々に単一の植生へと変化していってしまう。金蔵では自然資源が利用されなくなったことにより、これまで管理されていた水田や森林等が管理されなくなり、植物ほか生物多様性が減少することが危ぶまれている。

地域の住民や研究者は、棚田を中心とした景観が生物にとっても大切だということを感じており、2006‐2008年度には金沢大学・里山里海自然学校により、能登半島里山里海の生物多様性調査(三井物産環境基金助成)が実施され、調査地域の一つである金蔵周辺でも、植生やため池群の動物の分布状況が把握されている。この調査において、村落の中心域を占める棚田や、その周辺の管理された畦畔草地などの人為的影響の強い代償植生地に多様な植物が生育していることが明らかにされた。

貴重な植物が多く見られる金蔵の植生は、金蔵村創立以来の長年にわたって自然環境に働き続けてきた人々の行為とその地域がもっている自然的営力によってつくられたものである。金蔵学校は、棚田を存続させることでこれらの生態系の保全を図っている。

4.2 地域の伝統・文化の評価

金蔵は棚田における水田耕作を礎としながら、外部との交流人口を維持することで栄えてきた集落である。金蔵学校の活動も集落を存続させてきたこの仕組みに基づいており、都市域の住民を金蔵に呼び寄せ、交流人口を確保することで集落を活性化させることを目標としている。

金蔵学校は、金蔵の集落そのものを「やすらぎの里」と称したエコミュージアムとしての整備を実施した。具体的には、歴史を知るための案内板や散策のための標柱の設置、ツツジやサクラの植栽による景観の向上等を集落内で取り組んだ。これにより、来訪者は景観や歴史を楽しみながら散策できるようになった。また、金蔵五ヶ寺の紹介、金蔵に残る伝説、散策のモデルコース等が記された金蔵散策絵図を作成し、金蔵の集落を歴史・文化・自然・景観を楽しむことができるように工夫することで、外部からの来訪者を呼び込むことを図っている。

これまでの活動の積み重ねにより、人口160人ほどの金蔵に8,000人もの観光客が訪れるようになり、実際に交流人口が増加している。

4.3 多様な主体の参加と協働

金藏地域では、集落全戸が協力することはもとより、学術機関等と連携した取組を行っており、特に金沢大学による「里山駐村研究員制度」が特徴的である。この制度により金蔵学校の取組と金沢大学の研究活動が連携し、双方の活動が活性化されている。里山駐村研究員制度とは、金沢大学が、里山保全や地域の活性化などに取り組んでいる地元の人を「里山駐村研究員」又は「里山客員研究員・客員調査員」に委嘱し、民学連携を図るものである。研究員は地域の里山活動に関する情報提供や大学への提言、研究者との意見交換など、大学と連携した活動を展開する。

里山駐村研究員の活動は、地域の要望や提案を集め、大学の研究活動に活かすための「情報収集」、大学が蓄積してきた研究成果を地域に活かすための「情報発信」、里山連携を軸とした民学連携の理念や方向性について理解を深め、地域振興、里山研究の活性化を目指す「勉強会」の3つが軸となっている。

金蔵においては、金蔵集落在住の郷土史家が駐村研究員となっており、金蔵の特徴である、独特の歴史や伝説などを研究・伝承・発信する大きな助けとなっている。

4.4 地域社会・経済への貢献

棚田で収穫された米は、昔ながらの手法である「はざ干し」によって自然乾燥されている。この米は、集落の伝統的景観の主要素である棚田で収穫されたことや、伝統的手法を用いて食味を向上させたことに加え、金蔵の米は1300~1500年ごろの古い時代も年貢として上納されなかったため、門外不出の幻の米であったという歴史的背景があり、都市域からの来訪者にとっては付加価値のある米として、好評を得ている。また、金蔵の棚田では酒米も生産しており、この酒米から造られた日本酒を「純米酒 米蔵金」として販売している。これらの棚田由来の特産品を開発し、外部に発信・販売することは棚田の存続にも直結するものである。

金蔵を象徴する存在である五ヶ寺の中の一つ、慶願寺の渡り廊下には「木の音(こえ)」という名のカフェがオープンしている。ここでは、金蔵団子、金蔵野菜入りピザ、古代米ケーキなど、金蔵由来の農産物を利用したメニューが提供されており、地場産の農産物の需要拡大に寄与している。

調査について

本調査は、環境省委託事業の一環として、株式会社プレック研究所の松井孝子、河島泰斗、笠原岳洋が、金藏地区の住民の方々へのヒアリング調査及び現地調査に基づいて実施した。

調査にご協力を頂いた関係者の皆様に謹んで御礼を申し上げる。

参考文献

・環境省自然環境局(2009)「平成20年度重要里地里山選定等委託業務報告書」

・NPO法人 金蔵学校ホームページ( http://po5.nsk.ne.jp/~gakkou/