IPSIニュースレター2021年6月号

2021.06.30

 梅雨の候、皆様いかがお過ごしでしょうか。東京は梅雨入りし、紫陽花が雨に映える季節になりました。新型コロナウィルス感染症の収束が未だ見えず、どんよりした日々の中でも、このような季節の魅力は私たちの日常生活に小さな喜びをもたらしてくれます。皆さんも日常生活の中で、身近な自然を楽しんでみてはいかがでしょうか。

 さて、2021年6月号のIPSIニュースレターをお届けします。日本語では概要のみご紹介しておりますので、詳細は本文をご覧ください。

1.「国連生態系回復の10年」の開始

 今年の世界環境デーにて、「国連生態系回復の10」が正式に開始されました。IPSI事務局のヒマンガナ・グプタ博士(UNU-IASポスドクフェロー)は、生態系回復への貢献に関する理解を深めることを目的としたドキュメンタリービデオ「Role of indigenous peoples and local communities (IPLCs) in ecosystem restoration」を制作しました。専門家からのメッセージは、様々なステークホルダーが、生態系回復のための重要な10年に、取組をさらに展開させる励みになります。ぜひこちらからビデオをご覧ください。

 本ドキュメンタリーに加え、今号では生態系回復に関するIPSIケーススタディをご紹介します。各ケーススタディの詳細は、IPSIウェブサイトにてご覧いただけます。

【農地】

実施団体: NPO法人 秀明インターナショナル

フィリピンのシエラマードレ熱帯雨林において、伝統的な植物の栽培・加工・販売を技術的に支援することで、生態学的農業と伝統的な知識の融合が先住民の生活向上および地域の生態系保護に有効であることを実証するプロジェクトです。

実施団体:社団法人 台湾景観環境協会(TLEA)

台湾北西部の丘陵地帯に位置する鯉魚潭コミュニティにおける長期の生態学的モニタリングは、従来の農法から有機/環境に配慮した農法への移行が、人間と生態系の両方の健康を向上させたことを明らかにしました。さらに、生物や生息地の保護の重要性に対する農家の認識が高まり、有機米のグリーンプロダクトチェーンが展開されるという好循環が生まれています。

【森林】

実施団体:サンティアゴ・デ・コンポステーラ大学高等技術専門学校(EPS)

本ケーススタディは、スペイン北西部の2つの公有林において、絶滅の危機に瀕した在来品種を保存し、関連する景観、民族学的・文化的価値を保護するため、ヨーロッパ栗の果樹園を回復させたプロジェクトを紹介しています。また、伝統的知識と現代技術の融合は、OECMs(その他の効果的な地域をベースとする手段)として、生物多様性の二次的保全のための可能な戦略の一つであることを示唆している。

実施団体:ケニア森林研究所(KEFRI)

ケニアの南部平野部沿岸では、急速な人口増加、天然資源への過度の依存、文化の衰退などにより劣化した森林を、コミュニティ主導で回復し、持続的かつ長期的に保全する活動を行っています。本プロジェクトの主な成果の一つは、質の高い苗木の育成と、再植林地をモニタリングするための地域コミュニティの能力が強化されたことです。また、付加価値のある自然由来の製品・サービスの拡販により、家計所得の向上にも貢献しています。

【淡水】

実施団体:フランコフォンアフリカの友・ベナン (AMAF-BENIN)

世界で2番目に肥沃な谷とされるベナンのウエメ渓谷において、マングローブの植林を含むコミュニティ対話ワークショップやエコガード・トレーニングなどの活動を通じて、人為的圧力によって荒廃していた湿地生態系の回復に貢献しました。

【海と海岸】

実施団体:国連開発計画 (UNDP)

世界有数の豊かなサンゴ礁に囲まれ、豊かな生態学的生息地を提供するインドネシアのセマウ島からの事例です。SATOYAMAイニシアティブ推進プログラム(COMDEKS)の支援を受けたコミュニティ主体のランドスケープアプローチが、社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープ(SEPLS)の回復力構築に貢献してきました。これは、環境フォーラムやコミュニティ機関の設立を通じて、生物多様性の保全と生態系サービスを強化しつつ、海苔の養殖方法や有機農業の改善といった生計の開発と多様化によって達成されました。

実施団体:公益社団法人 日本環境教育フォーラム (JEEF)

本プロジェクトでは、世界最大のマングローブ林の一つとしてユネスコ世界自然遺産に登録されている、バングラデシュ・スンダルバンスの海岸堤防の回復力を高めるために、5,000本のマングローブを植林しました。また「スンダルバンス・マングローブSATOYAMA保全ガイドライン」や「保全フォーラム」の策定により、地域の環境意識が高まり、伝統的な水産加工技術の普及が地域住民の生活向上に貢献しました。

実施団体:研究と社会開発財団 (FIDES)

エクアドルのマナビにおいて、エビ産業によって著しく破壊されたマングローブの回復に取り組んだプロジェクトです。マングローブの破壊は、種の絶滅を引き起こし、生態系サービスを何世代にもわたって利用してきた家族の生活環境を悪化させました。レジリエンス評価ワークショップは、SEPLSの強みと弱みに関する地域コミュニティや組織の理解を深め、SEPLSのレジリエンスを強化するための優先的な行動計画の策定に役立ちました。

本ニュースレターに掲載希望のケーススタディがあれば、お知らせください。以前、紹介したことのあるプロジェクトでも構いません。

2.IPSI活動の最新情報

 今月、IPSIパートナーと事務局は、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)の一連の会合に積極的に参加しました。第8回会合に先立ち、2021年6月3日から9日まで開催されたステークホルダー・デーでは、IPSIパートナーである公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)の高橋康夫氏と、IPSI事務局のイヴォーン・ユー博士(UNU-IAS研究員)が、IPBESの機能や能力構築に関する地域・国別のプラットフォームやネットワークについて情報を提供しました。また、今回のステークホルダー・デーでは、IPBESの知見を広めるために、様々な取り組みを紹介することを目的としたバーチャルポスターセッションが開催され、IPSI事務局は、実践的なケーススタディを収載しているSATOYAMAイニシアティブ主題レビュー第5巻(多様な価値)、第6巻(社会変革)、そして今後、刊行予定の第7巻(健康、生物多様性、SDGの相互関係)から得られた知見を紹介するeポスターを展示しました。

 本会合に関する詳細および録画画像は、こちらからご覧いただけます。
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ポスターはこちらからダウンロードが可能です。

3.IPSI事務局長交代のお知らせ

 国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)の人事異動に伴い、2021年6月1日付で、渡辺綱男氏がIPSI事務局長に就任しました。渡辺氏は、UNU-IASの生物多様性と社会(BDS)プログラムのプログラムマネージャー(2020年10月就任)及びいしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(OUIK)の所長(2014年1月就任)を兼任しています。渡辺氏は、1978年、東京大学農学部林学科を卒業、東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号を取得されています。UNU-IASに所属される以前は、環境省の自然環境局長を務めておりました。2010年に開催された生物多様性条約第10回締約国会議(CBD COP10)では中心的な役割を果たし、会議の成功に貢献しました。IPSI事務局は、生物多様性関連分野における豊富な経験を持つ新事務局長を中心に、IPSIのさらなる発展に向けて邁進します。今後も変わらぬご指導、ご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

【 事務局長就任のご挨拶 / 渡辺綱男 】

 2010年に生物多様性条約COP10が開催された時には、私は環境省自然環境局に勤めており、COP10に向けて国連大学の皆さんと一緒に、IPSIを立ち上げるための準備会合を開いたり、SATOYAMAイニシアティブの有効性をCOP10の決議に盛り込むよう努力したことが思い起こされます。

それから10年あまりが経ち、この度、再び、IPSIダイレクターとして、SATOYAMAイニシアティブの発展のために、IPSIメンバーの皆さんと共に関われることをとてもうれしく思います。IPSIメンバー数も発足時の5倍以上と大きく拡がりました。

第1回IPSI総会が名古屋大学で開催された2011年には東日本大震災が発生し、その後も世界各地で甚大な自然災害が続いています。また、昨年来の新型コロナウイルスのパンデミックは、私たちの暮らしに大きな影響を与えています。自然災害や感染症の大きな影響を受けにくいレジリエントで持続可能な社会を創り出していくことがいま強く求められています。

SEPLSにおいて私たちが積み重ねてきた経験、そしてランドスケープアプローチの考え方は、こうした持続可能な社会づくりを進めていくうえで大きな力になり得ると考えています。

「国連生態系回復の10年」のキックオフ・イベントが今年6月5日の世界環境デーに合わせて実施されました。また、今年はポスト2020生物多様性枠組みの採択が目指されています。このように重要な国際的動向を受けて、IPSIの次の10年の活動を、皆さんと共に一層発展させていきたいと思います。

4. SATOYAMA保全メカニズム(SDM)2021募集開始

 SATOYAMA保全支援メカニズム(SDM)の事務局は、2021年SDMプロジェクトの提案募集を開始しました。SDMはIPSI下での取り組みの促進のため、2013年にIGES、日本国環境省、UNU-IAS(IPSI事務局)が共同で設立したIPSI協力活動です。毎年、選定されたIPSIメンバーに対し、現場プロジェクト、会議やワークショップ、研究活動などのために、10,000ドルを上限とした助成金を提供しています。応募の締め切りは、2021812です。

 詳細については、こちらからご覧いただけます。応募に関するご質問は、SDM事務局(sdm@iges.or.jp)に直接お問い合わせください。なおSDMの提案募集はIPSIメンバーのみを対象としています。

5. 【7月1日開催】CPTPP加盟国の環境問題に関する ウェビナー

 日本政府(2021年CPTPP委員会議長)は、ウェビナー「Be Nature Positive! – Conservation and Sustainable Use of Biodiversity 」を2021年7月1日10:00-12:00(日本時間)にオンラインで開催します。本ウェビナーでは、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)の環境章に基づいて、CPTPP加盟国や関連機関が協働する生物多様性の保全と持続可能な利用について、深く理解することが出来ます。持続可能な生産活動に密接な関わりを持つ「保護地域以外の地域をベースとする生物多様性保全手段(OECM)」や「ダスグプタ・レビュー」などのトピックも取り上げられます。IPSI事務局からは、イヴォーン・ユー博士(UNU-IAS研究員)が、社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープ(SEPLS)およびSATOYAMAイニシアティブ紹介の基調講演を行い、スニーサ・M・サブラマニアン博士(UNU-IAS客員研究員)が、パネルディスカッションの司会・進行を務めます。また、IPSIメンバーであるコンサベーション・インターナショナル(CI)副理事の日比保志氏が、GEF-SATOYAMAプロジェクト紹介の発表を行います。

 本ウェビナーはYou Tubeのライブストリームで配信予定です。なお、本イベントは英語のみでの開催となり、通訳はありません。

6. ケーススタディ紹介: ビクーニャとラクダと環境(VICAM)

 今月は、IPSIメンバーであるアルゼンチンのNGO、ビクーニャとラクダと環境(VICAM)のケーススタディ「South American Camelids as biocultural components in the Andean Altiplano of Argentina」をご紹介します。

 本ケーススタディは、南米ラクダ科動物(SAC)の一つであり、食料源や日用品(革や毛皮など)として、11,000年以上にわたってアンデスの生活を支えてきたビクーニャの持続可能な利用を取り上げています。SACは、アンデスの生物文化遺産の主要な構成要素であり、「アンデスの牧畜」と呼ばれる、文化的に独特な社会生態系を生み出してきました。VICAMは、この地域のランドスケープ、野生動植物、固有家畜の保全、貧困削減、地域社会や女性のエンパワーメントのため、2000年以来、幾つもの活動を行ってきました。牧畜システムやビクーニャの個体数の評価、牧畜が湿地の生態系に与える影響の推定、環境教育、野生ビクーニャの管理技術の開発などです。このような活動の結果、VICAMはアンデスの地域コミュニティと協力して、古代の野生生物捕獲技術を復元することに成功し、貧困にあえぐ先住民コミュニティに収入源をもたらすと共に、彼らに生態系や種を保全するきっかけを与えました。

 本ケーススタディの詳細はこちら(英語)をご覧ください。

 本ニュースレターで共有を希望されるイベント等の情報がございましたら、IPSI事務局までご連絡ください。また、日本語の記事をお送りいただければ日本語版ニュースレターに掲載いたします。皆様からの情報提供をお待ちしております。

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SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)事務局
国際連合大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)

東京都渋谷区神宮前5-53-70
電話:03-5467-1212(代表)
E-mail: isi@unu.edu

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