International Satoyama Intiative

SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)は、持続可能な社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープ(SEPLS)の価値を世界で広く認識してもらうことによって、その保全と再生を促進する取り組みです。

ソロモン諸島における多様な二次的自然を利用する暮らし

提出機関: ---
提出日: 03/05/2010
カテゴリー:
  • 凡例:森林
  • 凡例:沿岸
  • 凡例:農地
地区: ウェスタン州 ニュージョージア
国名: ソロモン諸島
詳細地図: 詳細地図(Google map)
要旨: ソロモン諸島の自給的な農村のランドスケープは、海岸近くの集落と、それを取り囲む様々な形の人手が加わった森林がモザイク状の環境を形成している。沿岸の環境は、浅いラグーンとやや沖合の堡礁島からなる。

農地は、常畑ではなく移動耕作を実践する場所として管理されており、森林は耕地に姿を変え、再び森林へと戻される。したがって、それぞれの森林には異なる動植物が存在し、住民はそれらを異なる用途に用いている。移動耕作の放棄後に成立した森林はノンボ(Nobo)と呼ばれ、住民が薬用植物や建材用の樹木や籐を採取する。一次林はムンゲ(Muge)と呼ばれ、しばしばカヌーの材料となる樹木( Gmelina molluccana)が(特別なルールのもとで)採取されたり、イノシシの狩猟がおこなわれる。ムンゲの中にも、祖先の人々の手が加わっていたり、現在の人々による介入を受けているものが含まれている。

近年は、市場経済の影響で、商業用の伐採や産業造林(主としてユーカリ)が広く行われているが、これらは地域住民の生活を脅かし、多様な野生生物種の減少を引き起こす可能性がある。このような大規模な変化を食い止め、リザーブや二次林の責任ある利用と、環境に優しく持続的な生計手段を支援していくことが重要である。
キーワード: モザイクパターン、伝統的ルール、移動耕作
著作者について: 古澤拓郎 古澤拓郎 東京大学日本・アジアに関する教育研究ネットワーク特任准教授。専門は人類生態学だが、研究内容は多岐にわたる。特に、ソロモン諸島において、変わりゆく生態学的因子と社会経済的因子が、住民の生存と健康に及ぼす影響に、関心を持っている。

大塚柳太郎 東京大学理学部生物学科卒業、同大学院理学系研究科人類学専門課程修士課程修了後、2005年まで同大学医学部・医学系研究科で人類生態学の教育研究に従事し、現在は同大学名誉教授。1981年に理学博士。2005-2009年に独立行政法人国立環境研究所理事長を経て、2009年4月に財団法人自然環境研究センター理事・上級研究員、同年7月より理事長。主たる研究の関心は、アジア・オセアニアの地域生態系における人間と環境の相互作用。

笹岡 正俊 財団法人自然環境研究センター研究員。専門は、環境人類学およびインドネシア地域研究。日本学術振興会海外特別研究員/インドネシア科学院社会文化研究センター客員研究員(2002年-2005年)、財団法人林業経済研究所研究員(2005年-2008年)を経て現職。自然環境研究センターでは、生物多様性保全分野の国際協力、およびSATOYAMAイニシアティブ関連業務を担当。
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ソロモン諸島の人々は、農耕や漁撈や林産物採取などの生業活動に加えて、近年の市場経済浸透を背景に、海洋資源や農産物の販売や外国の林業会社での労働などの現金獲得活動により生計を営んでいる。本稿では、広い意味での土地(海域も含む)の多様な利用様式、および、それに関わる環境保全の知恵について記述し、それらを踏まえたうえで、ソロモン諸島の里山的ランドスケープの特徴と今後の持続可能な二次的自然の保全に向けた方向性について論じたい。

1. 調査の概要

ソロモン諸島国は、比較的大きな6つの島とその他900以上の小さな島々で構成される。人口は約41万人(1999年センサス)である。住民の9割はメラネシア系であり、残りはミクロネシア系、ポリネシア系などが占める。国土の88%はクランの慣習地(Customary Land)である。また、国土の約8割が森で覆われている(FAO 2007)。

ソロモン諸島での情報収集は、ウェスタン州ニュージョージア(New Georgia)島オリヴェ(Olive)村での聞き取りを中心に10月30日から11月6日にかけて実施した(村には、11月1日から3日まで3日間滞在)。村での調査に加えて、ウェスタン州州議会議員、林業省(州事務所)職員、現地で環境保全・社会開発分野で活動するNGOから情報を収集した。

図1.ソロモン諸島とウェスタン州・ニュージョージア島の位置 出所:Furusawa and Ohtsuka (2009)

2.陸域・海域の景観とその多様な利用様式

住民が使う陸地には、ニュージョージア本島と、そこから離れた小さな堡礁島があり、彼らは植生や土壌などが異なると考えている。

以下、本島、環礁島、海域の土地・資源利用の概要を述べる。

図2.オリヴェ村における陸地空間の分類 出所:フィールド調査

2.1. 本島

(1) 集落

集落にある植物のほとんどは栽培あるいは半栽培の有用植物である。その多くが、食用、嗜好品、道具材、観賞用、日陰を作るなど、地域住民によってなんらかの有用性が認められている。もっともよく見られるのは、ベテルナッツ( Areca catechu)、ココナツ( Cocos nucifera)、食用のナッツをつけるサガリバナの栽培品種( Barringtonia edulis)、屋根・壁材となるサゴヤシ( Metroxylon spp.)である。

(2) 畑

移動耕作はこの地域の住民の主要な生業である。一年を通して気温も降水量も、あまり変動しないため、畑の造成には特定の季節がない。主作物はサツマイモとキャッサバである。イモ類の他、ヌメリアオイ( Hibiscus manihot)などの野菜、そしてコルディリネ( Cordilyne terminalis)などの観賞用・呪術用の植物や害獣を防ぐ効果があるとみられているコリウス( Coleus spp.)などもみられる

本島では、耕作期間は2-3年程度で、休耕期間は30年程度である。土地が循環的に畑地として利用されているため、集落から内陸に向けては、畑と、休耕年数の異なる森、そのほかの植生が、モザイク状に分布している。

(3) 二次林( Nobo

移動耕作の放棄地に成立した二次林はノンボ( Nobo)と呼ばれる。ここでは、ツルヒヨドリ( Mikania cordata)やミルキーパイン( Alstonia scholaris)などの薬用植物やアオギリ( Commersonia bartamia)などの建材用樹木、そして、柱と梁や、垂木と屋根を結ぶのにつかわれる籐( Calamus spp.)などの多様な林産物が採取されている。

(4) 祖先の二次林/聖域

ノンボとは別に、今の住民が生まれるよりも前に伐り開かれ、放棄された森で、数十年~百年以上は経過した老齢二次林はエマタ( Emata)と呼ばれる。住民はそこに、伝統的に果を食したり、樹液油脂を蝋にしたりして利用するカンラン科樹木( Canarium spp.)など、巨大な有用樹が生えていることで、人為的影響があったかを見分ける。祖先の住んでいた居住地や祭祀所など、「聖域( Hope)」になっている場合も多く、そこでは侵入や木材伐採が禁じられている。

写真1:聖域の森 撮影:古澤拓郎(東京大学)注:林業会社などに聖域を宣言するためにピジン語でTABU(タブー)とペイントしてある

(5) 一次林

一次林はムンゲ( Muqe)と呼ばれている。ここでは、カヌーの材料になる樹木( Gmelina molluccana)が採集されることがある。この木は、直立し幹に穴や裂け目が少なく、軽く、撥水効果を持つためカヌー材として最適である。そのため希少であり、後述するような利用のルールがある。また、イノシシなどを狩猟するのも、一次林が多い。

住民がムンゲと認識している広大な森の中にも、上述のエマタのように、かつて人為的な改変が加えられた痕跡が見つかることも多い(Bayliss-Smith et al. 2003)。そのため、ムンゲと呼ばれるところは、完全な一次林ではなく、やはり祖先が居住した痕の二次林や、現在の住民により介入を受けた森も含む、モザイク状を呈していると考えられている。

(6) リザーブ

オリヴェ村には、集落周辺に二カ所、「リザーブ」と呼ばれている森がある。これは、1970年代に、今の土地に集落を築く際に、指導者が定めた、いわば在地の保護区であり、外国企業による森林伐採を認めず、畑のために切り開くことを禁じる一方、住民が生活のために、必要な樹木を取ることや、カヌーにあいた穴を埋める粘着材になる果樹をつけるパリナリ( Parinari glaberrima)をはじめとする非木材林産物採取は可能である。ここは、伐採から保護されつつも、住民が継続的に有用樹木を利用してきた場所であり、上記の一次林とも二次林とも異なる植生になっている。

2.2. 堡礁島

堡礁島は、本島とは土壌や植生も異なる。本島が短い耕作年数と長い休耕期間という移動耕作に基づいていることと対照的に、ここではほぼ常畑化している。Furusawa and Ohtsuka (2009)によると、堡礁島では、連続して同じ場所を耕作する年数が平均29年で、逆に休耕期間が9年である。

本島と比較して農業の生産性が極めて高いため、本島において換金作物栽培など新しい土地利用を行い、また万が一それが失敗して十分な収入が得られない状況になった場合に生業経済を維持するといったリスク回避に、本島と堡礁島の使い分けが役立っていると考えられる。

写真2.堡礁島の畑 撮影:古澤拓郎(東京大学) 注:地面が平らであり、畑の周りは草や低木である。常畑化しているため、大木を倒した形跡がない

2.3. 海域

ここでは外洋を除くラグーン、浅海、マングローブ林、海洋保護区についてのみ述べる。

(1) ラグーン・浅海

ラグーンは、サンゴ礁( Sagauru)、藻場( Kulikuliana)、砂地( Onone)、シルト泥地( Nelaka)などに分かれており、それぞれの場所での生息種に応じた生業が行われている(Aswani and Lauer 2006)。例えば、サンゴ礁の深いところでは釣りをし、浅いところでは釣り餌にする小魚を銛で仕留める。また、砂地では、主要現金収入源であるムシロガイ( Nassarius spp.)の採集が行われている。

(2) マングローブ

水域と陸域の接するところであるマングローブ( Petupetuanaと呼ばれる)は、貝やカニの採集場であり、これは自家消費だけでなく、換金価値もある。村人達は、マングローブを気にかけている。たとえば、赤土がマングローブに流入して、貝やカニが激減したときには、抗議をして操業をとめさせた、という村人もいた。

写真3.ムシロガイを採集している女性 撮影:古澤拓郎(東京大学)

(4) 海洋保護地(MPA)

現地NGOと海外の研究者によって計画された海洋保護区は、ラグーンのサンゴ礁域に設けられた(Aswani and Lauer 2006)。サンゴ礁は、住民にとっては小さな魚を獲る場所である一方で、魚の産卵場になり稚魚が棲息しており、魚類個体群を守るために、重要である。つまり、住民にとっては、禁止されても生活への影響が比較的少ないが、魚類への良い影響は大きいのである。なお、NGOは保護区を設定する代わりに、診療所の建物をつくるなど、開発援助と、一体化して行っている。海洋生態学者によるフォローアップでは生態系が良好になっていると評価されている(Aswani et al 2007)。

3. 保全のための伝統的なルール

住民による地域の生態系保全や自然利用の持続可能性を高めるためのルールとしては、先に述べたリザーブや海洋保護区の管理に加えて、様々な伝統的ルールがある。

例えば、カヌーを作るのに適した数少ない樹種で、希少樹木でもあるアロココ( Gmelina moluccana)の利用をめぐるルールである。もしもカヌーが必要になれば、幼木のアロココを見つけて目印をつけて、将来自分が使用することを他の村人に周知させておかねばならない。さらに、実際に使用する際には慣習的な長であるチーフの許可を得なければいけない。

また、伝統的な家屋の屋根や壁の材料として重要なサゴヤシの葉の採取をめぐるルールもある。サゴヤシの葉は、一度切り倒してしまうと成長に時間がかかるために、幹は残して葉っぱだけを刈り取るようにしている。それも、すべての葉っぱを取りつくしてしまうと、枯れてしまうので、かならず葉を4枚残していくことにしている。

写真4.アロココの幹からカヌーを彫っている様子 撮影:古澤拓郎(東京大学)

写真5.サゴヤシの葉が4枚残されている様子 撮影:古澤拓郎(東京大学)

4.おわりに

ソロモン諸島の生業社会の景観は、陸域では、海辺にある集落と、それを取り囲むようにモザイク状の二次林やリザーブがある。海域では、浅いラグーン、そしてその先にある堡礁島で構成されている。日本の里山に比べると、人為的な影響が比較的少ない。また、農地についてみてみても、ひとつの土地を恒常的に切り開いておくことが少ない。畑を作っても、そこは繰り返し森に還してきている。それにより、「森」は均一なものではなく、多種多様な森の集合体である。それぞれの森で植物相や動物相が異なり、人間の利用も異なる。

近年、市場経済化の影響で、商業的な森林伐採がおこなわれ、その跡地に換金作物としての産業造林が行われるようになっている。海でも、換金目的の海産物採集が増えており、海洋生態系への影響が強くなっている。このような傾向が続くことは、生物多様性が減少するだけでなく、人々にとってもこれまでの生活を破綻させる可能性があるものである。

一般に、太平洋島嶼国では、国による自然保護の取り組みは鈍い。その一要因は、国家収入の多くが木材や漁業などの自然資源の利用に依存しているためである。また、仮に政府が保護に取り組もうとしても、国土の大半が慣習地であり、住民の同意無しには、保護地域を設定することなども困難である。

生業が農耕や漁撈という、自然を基盤としてきたソロモン諸島にとって、自然を利用しながらの暮らしを、今後も続けていくしかない。

ソロモン諸島において自然資源を守ってゆくための手立てとして、手つかずの森を残すことや、サンゴ礁をすべて保護区にすることは、到底受け入れられないし、仮に一時的に受け入れたとしても、それを持続していくことはできない。したがって、リザーブや二次林のように、自然を利用する必要性を認めて支援しつつ、森林伐採や商業造林によって大規模な改変をとめていくことが、彼らの生活と文化そして生物多様性のために、重要である。

本調査について

本調査は環境省委託事業の一環として、東京大学の古澤拓郎および,(財)自然環境研究センターの大塚柳太郎と笹岡正俊により,10月30日から11月6日にかけて実施された.現地調査は,ウェスタン州ニュージョージア(New Georgia)島オリヴェ(Olive)村での聞き取りを中心におこなった.また,村での聞き取りの他,ウェスタン州州議会議員、林業省ウェスタン州事務所職員、現地で環境保全・社会開発分野で活動するNGOなどへのインタビューやワークショップを通じて情報収集に努めた。

参考文献

Aswani, S. and Lauer, M. (2006) Benthic mapping using local aerial photo interpretation and resident taxa inventories for designing marine protected areas. Environmental Conservation 33:263-273.

Aswani, S., S. Albert, A. Sabetian, and T. Furusawa. 2007. Customary management as precautionary and adaptive principles for protecting coral reefs in Oceania. Coral Reefs 26:1009-1021.

Bayliss-Smith, T., Hviding, E. & Whitmore, T. 2003. Rainforest Composition and Histories of Human Disturbance in Solomon Islands. Ambio 32: 346–352.

FAO. 2007. State of the World’s Forests 2007 Rome: FAO.

Furusawa, T. and Ohtsuka, R. 2009. The role of barrier islands in subsistence of the inhabitants of Roviana Lagoon, Solomon Islands. Human Ecology 37(5):629-642.