International Satoyama Intiative

SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)は、持続可能な社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープ(SEPLS)の価値を世界で広く認識してもらうことによって、その保全と再生を促進する取り組みです。

メキシコ・オアハカのイクストラン・デ・フアレス(Ixtlan de Juarez)におけるコミュニティ林業の管理

提出機関: ---
提出日: 03/05/2010
カテゴリー:
  • 凡例:森林
地区: オアハカ(州)
国名: メキシコ
詳細地図: 詳細地図(Google map)
要旨: メキシコの生物多様性と自然資源の劣化は、これまでの政府機関による保全イニシアティブの成果に追いつくには程遠かったため、政府機関以外の主体を取り入れた新たな方法を模索している。その例のひつとして、イクストラン・デ・フアレスでは“ Usos y Costumbres”(利用と慣習)という伝統的な統治制度を適用している。これは、特に年長者と開かれた議会、合意を重要視する先住民のコミュニティサービス制度を起源としている。また、議会はコミュニティのメンバーで構成され、森林管理を含む地域住民に関するすべての決定において最大の権力を持っている。

こうした伝統的な統治制度は、森林資源へのアクセスに関する管理規則の決定、道路ネットワーク計画・建設、木材生産、コミュニティメンバーの森林保全活動への参加義務など、自然資源管理に関する主な課題に対する効率的な意思決定に貢献している。

この地方では、伐採事業者などのコミュニティ林業(CBFE:community-based forest enterprises)が森林保全に大きく貢献している。特にCBFEが利用する樹木などの森林資源は森林管理計画に従って厳密に管理されている。この計画はコミュニティが起案し、州政府が承認するものである。実際に樹木伐採が許可されるエリアと保護すべきエリアが明記されており、これに従うことが事業者には義務付けられる。また、利益はコミュニティに還元される。
キーワード: 保全, 自然資源管理, メキシコ
著作者について: 松崎夏菜 国際開発高等教育機構(FASID)プログラム・オフィサー。環境と開発、特にコミュニティ主体の総合自然資源管理を専門分野とする。主にアフリカにおける現地調査経験を有する。アフリカではコミュニティ森林管理およびエコツーリズム開発に従事した。

Bernard Yun Loong WONG 国連大学高等研究所SATOYAMAイニシアティブ・コンサルタント。森林生態学を専門。生態学と歴史手法を用いて過去の人間活動と天然林の成立との関係を検証。人と土地とのかかわりによる伝統的なランドスケープ形成も研究。
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メキシコでは、人口増加や過去の農業政策、農地の拡大、過剰な収穫、不十分な規制のもとでの観光、経済発展の加速、恣意的な定住政策による森林伐採と土地の劣化が陸域の生物多様性に深刻な影響を与えてきた。

メキシコは生物多様性条約(CBD:Convention on Biological Diversity)の締約国として、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する責任を認識している。しかしながら、これまでの政府機関による保全イニシアティブの成果は生物多様性と自然資源の損傷の程度に追いつくには程遠かった。このような状況から、政府機関以外の関係者も含めて一体的に保全の取組みを拡充する新しい機会が模索されることとなった。コミュニティが主体となった生物多様性保全は実際、メキシコ国内で急速に拡大しており、州や連邦政府レベルの保護機関、NGO、研究機関における重要性の認識の高まりに後押しされて、政策決定プロセスにおいてもコミュニティ主体の生物多様性保全の影響が広がっている。

1 地域の状況

オアハカ州シエラノルテ地方は、生物の豊かさと固有種の多さから国内で最も重要な生物多様性保全地域とされている(Ovideo, 2002)。この地方の生態系には非常に多数の動植物種が密集して生息・生育し、世界の科学者の注目を集めている。8,400種以上の植物が生育し、736種の鳥類、245種の爬虫類、1,103種の蝶が生息するこの地方は世界遺産の生物多様性「ホットスポット」である。固有種の数も多く、ソテツ科数種など希少動植物も多数生育・生息する。こうした優れた生物多様性の重要性が認識されているものの、その一方で国内の他の地域と同様、森林伐採その他の人間活動による危険性にさらされている。

ここ数年間に、オアハカでは特に森林保全活動をはじめとして、コミュニティが主体となった生物多様性の保護・保全活動の数や範囲が拡大し、多様なアプローチが開発されている。

イクストラン・デ・フアレスの町

2 政策改革と環境保全に関する懸念

1986年まで、商用木材の収穫が事業権制度や非効果的な州法に基づいていたため、森林および自然資源の持続可能な利用に対するインセンティブは歪んでいた。この当時には自然資源利用の長期的な持続可能性や多様化に対するインセンティブはほとんどなかった。先住民やエヒード(ejido、メキシコ革命後に土地を持たない小作農民に与えられた土地に発展したコミュニティ)が国内の森林の大部分の法的な所有権を持っていたにも関わらず、商業利用の圧力のためにその所有地を自由に利用することができなかった。さらに、過去の農業政策は自給自足農業や営利目的の農業、家畜飼育のための森林開拓を促進してきた。しかし、1990年代初頭の農業セクターの政策改革によって、それまでの価格や、家畜および資材に対する補助金、貿易政策における歪みが矯正され、土地管理制度の改革によってエヒードと先住民の土地所有権を保護したうえで土地市場が強化された。1986年にはこのセクター改革の一環として新しい森林法が可決され(その後1992年に改正)、政府が承認する森林管理計画に基づいた、先住民およびエヒードによる森林管理のための法的枠組みが整備された。

メキシコの地域住民は領地と自然資源に関する法的な権利に続いて、森林資源をはじめとする自然資源の利用に関する意思決定の地域的な法定権力も獲得した。この権力は地域住民による効果的な保全活動と持続可能な利用の実施に基づいており、地域住民法に明記されるとともに中央の政治制度にも正式に認められている。

イクストラン・デ・フアレスのコミュニティが管理する製材工場

3 イクストラン・デ・フアレスのコミュニティを主体とする森林管理

ここでイクストラン・デ・フアレスのコミュニティを主体とする森林管理(CBFM:Community-based forest management)を分析する理由はいくつかある。CBFMは、コミュニティの森林の構造に則した社会経済的な管理と、生態系ベースの森林の管理を組み合わせた、さまざまな形態をとる。生態系ベースの資源管理はランドスケープ全体にわたるさまざまなスケールの生態的、社会的、経済的配慮と生態系全体を視野に含むものである。こうしたことからコミュニティが主体となった林業はコミュニティ自体に経済的利益をもたらすと同時に、森林とその他の生態系プロセスの維持に貢献することが大きく期待される。また、コミュニティはランドスケープの管理にも伝統的な統治制度を適用してきた。コミュニティフォレストには伝統的な森林資源利用を通じて、審美的な便益、野生生物生息・生育域の提供、流域の保全、用材の持続可能な管理や、固有種保護の機能が期待される。

3.1 伝統的な統治制度と現代的な森林管理の融合

イクストラン・デ・フアレスの自治体は州や国の統治制度とは異なる伝統的な統治制度を適用している。これは利用と慣習(Usos y Costumbres)制度と呼ばれるもので、特に年長者と開かれた議会、合意を重要視する先住民のコミュニティサービス制度を起源としている。議会(Asamlea General)はコミュニティのメンバーで構成され、森林管理を含む地域住民に関するすべての決定において最大の権力を持つ。

こうした地方の統治制度は、森林資源へのアクセスに関する管理規則の決定、道路ネットワーク計画・建設、木材生産、コミュニティメンバーの森林保全活動への参加義務など、自然資源管理に関する主な課題に対する効率的な意思決定に貢献してきた。

図1:コミュニティ林業の利益のコミュニティ内での流れ

3.2 森林保全方法としてのコミュニティ林業

この地方では、伐採事業者などのコミュニティ林業(CBFE:community-based forest enterprises)が森林保全に大きく貢献してきた。特にCBFEが利用する樹木などの森林資源は森林管理計画に従って厳密に管理されている。この計画はコミュニティが起案し、州政府が承認するもので、実際に樹木伐採が許可されるエリアと保護すべきエリアが明記されている。これに従うことが事業者には義務付けられる。

CBFEが得た利益は議会が決定した方法で再投資され(図1)、トラックや製材機械、クレーンなどの林業インフラや、道路や学校校舎、地域医療センターなどの社会便益となる。コミュニティメンバーの間でも平等に利益分配される。

森林資源は、森林管理計画と議会の指示の双方に従って利用される。このような森林管理を通じてコミュニティは経済的利益と社会的利益を同時に創出する。

3.3 多様な主体との連携

イクストラン・デ・フアレスではコミュニティが自主的な意思決定により森林を管理するが、連邦政府も環境天然資源省(SEMARNAT :Secretaria de Medio Ambiente y Recursos Naturales)や国家森林委員会(CONAFOR :Comision Nacional Forestal)などの規制・支援機関を通じて森林管理に関与することとされている。SEMARNATは森林規制を行う組織で、CONAFORは国内の森林の促進および保護に関するすべての活動を管轄するものである。イクストラン・デ・フアレスのコミュニティは政府機関と良好な関係を維持しており、政府から森林保護活動の補助金を受けている。その他さまざまな非政府組織(NGO)からも支援を受けている。中でも国際NGOである世界自然保護基金(WWF:World Wildlife Fund)は地域の森林技術者とコンサルタントの能力強化研修を実施したほか、コミュニティ主体のエコツーリズムを促進・開発した。

文献調査と現地調査の結果、イクストラン・デ・フアレスのCBFMは、その伝統的な意思決定の仕組みとさまざまな主体との協力を基盤として効果的に運営されていることがわかった。CBFMは持続可能な森林資源の利用を可能にするだけではなく、コミュニティに社会経済利益をもたらす。こうしたことからイクストラン・デ・フアレスの事例は森林保全を促進し、持続可能な方法で社会経済利益をコミュニティにもたらすひとつの方法であるといえるだろう。

本調査は国連大学高等研究所SATOYAMAイニシアティブの活動の一環として実施された。

引用文献

Ovideo G. (2002) The Community Protected Natural Areas in the State of Oaxaca, Mexico. WWF, Gland, Switzerland.